【医学古今】

血便の鍼灸治療

血便とは排便の際に目視できる血が便と一緒に出てくることです。原因は痔からの出血が大半ですが、直腸や大腸のポリープ、腫瘍、大腸憩室炎、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、出血性大腸炎など、さまざまな疾患によって起こることもあります。

漢方医学の観点から診ると、血便の原因は湿熱、風熱、血熱、瘀血、脾気虚、腎陽虚などに分類されます。鍼灸で血便を治療する場合は患者さんの体質を考慮して取るツボや施術法を決めます。古代の文献を調べてみると、血便には背中にある膈兪、肝兪、尾骨の近くにある会陽、長強、下髎、小腸兪、ふくらはぎにある承山、足首にある復溜、足の第1指の周囲にある太衝、太白、隠白、足首にある照海、頭頂部にある百会、前腕にある支溝、腰の辺りにある脊中、命門、腸風(奇穴)などのツボが使われていました。しかしその他にも、長年の治療経験から得た「血便を治療するツボ」というものがあります。こういったツボも併せて治療すると、より良い効果が得られます。

最近、一例の血便患者を治療し、割合良い効果が得られました。この患者さんは50代の女性で、18歳の時に下血して潰瘍性大腸炎と診断されました。その後も寛解と悪化を繰り返し、長期に亘って副腎皮質ホルモンを服用されていましたが、最近になって血便が頻繁に出るため鍼灸院を訪れたとの事でした。

この患者さんには、発症前に強い腹痛を感じ、腹痛が緩和すると下血する、という特徴がありました。また、最初に症状が現れた時の生活環境を尋ねると、寒さと精神的なストレスをかなり強く感じていたことが分かりました。これらの情報と現在の諸症状を併せて分析した結果、この患者さんの体質は「久寒固冷、気滞血瘀」であると判断し、腰部にある腰陽関、腸風(腎兪の内側)、仙骨にある次髎、ふくらはぎにある承山などのツボを取り、鍼灸を実施しました。数回施術すると血便は殆ど出なくなり、形にならない程に緩かった便が普通の状態で排泄されるようになり、腹部の張りも改善し、頚肩部の凝りや頭の重だるさ等の諸症状もほぼ無くなりました。

患者さんがこの結果をかかりつけ医に報告したところ、このまま鍼灸治療を続けるよう指示されました。現在もまだ治療継続中です。

(甄 立学)