≪医山夜話≫ (13)

優秀な女医が残した人生の遺憾

私の友人に、ケイシーという女医がいました。彼女が勤める病院は私の診療所の近くだったので、私たちはよく互いに患者さんを紹介していました。有能で美しいケイシーは私と同年齢でしたが、不幸なことに、彼女は不治の病に冒されてしまいました。私は7年間、彼女が病気を患ってから亡くなるまでの全過程を見守りました。彼女のことを思い出すと、悲しみで胸が一杯になります。

 ある日、彼女は患者として私の診療所を訪れました。問診票の空白のところに、「末期がん、余命1~2ヶ月。神さまも私自身もあきらめています。ここに来たのは一時的な痛み止めの手段を得るためです」と書きました。

 当時、彼女はいつもかばんを背負っていました。かばんの中にはモルヒネ注射の容器が入っており、容器に繋がれたチューブの一端が彼女の身体の中に挿し込まれています。

 7年前、ケイシーは乳がんが見つかると、自分の患者を治療する時と同じように、てきぱきと自分の乳房を切除してもらい、化学療法と放射線治療を受けました。髪の毛は全て落ちてしまいましたが、その後また生えてきました。その後、彼女は一つの任務を完成させたかのように、がんのことはすっかり忘れていました。

 しかし、がんは彼女の身体の中で5年間沈黙した後、再発しました。今回の再発は予測もできないほどひどく、腫瘍は体内から迅速に筋肉と皮膚に拡散してきました。体表に現れたがんは岩のように硬く、でこぼこしていて多くの血管や神経と絡み、彼女に大変な苦痛を与えていました。彼女は腫瘍研究所や専門病院を転々とし、検査のために様々な治療法を試しましたが、専門家たちは彼女の病気に対してさじを投げました。

 彼女は涙を流して私に言いました。「私は本当に、西洋医学に対して失望しました。西洋医学は人間を機械と見なし、肝臓や腎臓を切ったり、取り替えたり。体内に釘を打ち込んだり、管と金属の板を埋め込んだりすることができますが、これらのすべての手段を尽くしても治らない時には、この身体を廃棄せざる得なくなってしまいます」

 考えてみれば、確かにそうです。機械は人間に作られたものですが、人間の体は神によって創られたものです。人間が作った金属機械や電気部品を使って、霊性のある、宇宙と一体になっている人間の体を根本から治そうとしても無理なのです。

 「あなたは、自分の身体と会話をしてみたことがありますか?」私は彼女に聞きました。

 彼女は不思議な顔で「つまり、あなたは、人間は自分の体と会話することができると言っているのですか? 今、私は自分のこの醜い体を恨んでいます。体の中には、私が永遠に認めたくない恐ろしい腫瘍があり、それが私を苦しめています。私はそれに体を操られて、毎日それと一緒に暮らさなければなりません」と話しながら、涙で濡れた顔を覆いました。あれほどプライドが高く、とても優秀で仕事に成功した医者が、自分の身体を持て余し屈服せざるをえない姿を、私は初めて目にしました。

 「間もなく私は神に召され、苦しみから抜け出す魂になります。もし、もう一度、神様から人間の体をもらえるなら、私はあなたと同じような人生を送りたいと思います。あなたが静かに坐って気功修煉する姿を見て、私は本当にうらやましく思います。あなたこそ本当に、自分の心や体を大事にする方法が分かっています。残念ですが、私にとってはもう遅すぎて、やろうとしても間に合いません」と、ケイシーは残念そうに話しました。

 ケイシーは、この世を去りました。縁があってこの文章を読むことができる方たちが、ケイシーのように後悔することがないように、との思いで彼女のストーリーを書きました。

(翻訳編集・陳櫻華)