≪医山夜話≫ (19)

ダニーのカルテ

 ダニーの格好は、とても人目を引きます。黒づくめの服に自転車のチェーンで作ったベルトを締め、穴だらけのブーツを履いています。髪は赤紫色に染め、眉には鉄リングを付け、口紅は黒でした。人混みを歩くと、すれ違う人が皆振り返って見るので、彼女はその反応を楽しんでいるようです。

 しかし、私がダニーに会った時、彼女は少しがっかりした様子でした。恐らく、私の目には好奇心や称賛がなく、彼女の心を見破った表情を浮かべたからでした。彼女は内心とても苦しく、絶望的で、自信を持っていない、と彼女の外見から私は確信しました。

 彼女は五十肩で、ひじの痛みと頭痛を訴えていました。彼女がジャケットをぬいで肩が見えた時、私は驚きました。鞭にでも打たれたような傷跡がありました。古い傷の上を新しい傷が覆い、悲惨で見ていられません。

 「誰があなたをこんな目にあわせたのですか?」

 彼女はあまり気にしていない様子で、「ボーイフレンドよ。彼は謝ってくれて、二度としないと約束したわ」と答えました。

 びっしりと混在する古い傷と新しい傷を見れば、そのボーイフレンドがいかに約束を破っては繰り返し彼女に暴力をふるってきたかが分かります。「なぜ彼の暴力を許していたのに、診察に来たのですか」と私は彼女に聞きました。

 「友人からの勧めです。先生は彼の肩の痛みを治してあげましたよね。彼は、先生が『真・善・忍』の道理を知っていると、よく話していました」。彼女の言葉は、私の胸につきささりました。彼女が過去に何をしてきたかに関わらず、今、縁があって私に法輪大法について尋ねているのです。私は、できるかぎり彼女を助けようと思いました。

 私は彼女に、善悪には報いがあるという因果応報のことや、法輪大法の修煉について教えると、彼女は真剣に聞いていました。それから、自分の身の上話をしてくれました。

 8歳の時、父親は彼女を捨てるために車で遠いところへ連れて行き、置き去りにしました。しかし、数日後、彼女は自分の足で歩いて家まで帰りました。それ以来、ダニーは生きるとは、捨てられるか虐待を我慢するかのどちらか一つしかないと思うようになり、彼女は後者を選びました。捨てられない限り、人と一緒にいられる限り、どんな虐待にも耐えました。彼女は繰り返し殴られ、体中傷だらけになり、繰り返し捨てられたそうです。彼女はますます自信をなくし、孤独になりました。今、彼女は虐待されることに慣れてしまい、そのことに鈍感になっていました。

 私から因果応報の道理を聞くと、彼女は「過去の私は誰だったか知らないけれど、ただ夢の中で、私に優しくしない人には私も暴力でやり返しました。私に殴られて、兄はひざまずいて許しを求めてきました。それから父親、母親も…その時は、本当にうっぷんを晴らして胸がすっとしたのです」と、言いました。

 「先生の言われた業力、因果応報などが本当に存在するのなら、まさに前世で私は彼らをそのように虐待したのかもしれません。今の私はそれを返済しているのですね・・・」

 「先生、私のような人間に、まだ救いがありますか?」

 「あります。これからは、真実の事を話し、良いことをして、善意を持って人と接して、トラブルが起きた時には我慢すれば、きっと救われますよ」と私は答えました。

 

(翻訳編集・陳櫻華)