『レ・ミゼラブル』――フランス文学の最高峰(四)

ヴァルジャンの願いが再びジャヴェールの心に衝撃を与えました。パン1本盗んだだけで20年近くの刑を言い渡され、刑務所で青春を失った者が、その後なぜ、市民に慕われる市長になれたのか?なぜ市長として市民のために真面目に働き、また、見知らぬ女性が残した孤児を引き取り、育てることができたのか?なぜ肝心な時に、無実の人を傷つけたくないと全てを捨てて、自分が犯罪者であることを認めることができたのか?そしてなぜ、戦いの中で銃を持っていても他人を打たず、長い間、逃亡生活をさせたこの自分を見逃してくれたのか?

ジャヴェールはヴァルジャンの一連の行動に深い疑問を持ちました。昔、ミリエル司教の慈悲深い心が傷だらけのヴァルジャンの心を癒し、救ったことを知らなかったのです。ヴァルジャンの人生は同情に値するし、今の彼が悪い人とはとても思えません。しかし、彼が逃亡者であることも間違いないのです。そして、自分も警察官としての責任や使命から逃れることもできません。

法律が支配する秩序の社会ではなく、道徳や親切、寛容のある世界を感じたジャヴェールの心は乱れ、これまでの信念が崩壊しました。ヴァルジャンと別れた後、ジャヴェールは今後の人生にどのように向き合えばいいのか分からなくなり、ついに1832年6月7日の未明、ノートルダム橋の欄干から飛び降りたのです。

物語の最後では、マリユスが回復して、コゼットと結婚し、読者に積極的で楽観的な印象を与えています。ヴァルジャンは自分の使命を果たしたと悟り、秘かに離れ、ただ独り、教会で死を待ちました。息を引き取る間際、マリユスとコゼットがヴァルジャンに会いに来て、ヴァルジャンはこれまでのすべてのことを包み隠さず話し、そして、自分を救ってくれた銀製の燭台を2人に渡し、ミリエル司教の教えに従い、慈悲深い心をもって生きていくよう伝えました。

ここまでが『レ・ミゼラブル』の大まかなあらすじです。物語には曲折が多く、様々な人物像が描き出されています。ミリエル司教は慈悲を以てヴァルジャンを変え、そして、ヴァルジャンは司教の教えを引き継ぎ、寛大で、優しい心で他人を許し、受け入れました。

この大河小説は、ユーゴーの『ノートルダム・ド・パリ』に含まれる社会や法律制度の不公平への訴えや、人間への博愛の心、慈悲深い心はどんな人をも変えられるという人道的思想を継承し、さらに人間性、社会性を重視した内容となっています。

『レ・ミゼラブル』には当時の社会と歴史だけでなく、著者が期待している素晴らしい未来も込められているのです。
(完)

(翻訳編集・天野秀)

江宇応