絵の中の時空ーー美術家=物理学者?(五)

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視覚における距離と大きさの認識は、空間に関連するだけではなく、時間、速度などの要因に対する人の認識にも関係しています。人間の視覚メカニズムの特徴は、広い視野を持っている時、遠い場所で高速に動いている物体が遅く見え、逆に、そのものに近づく時、それが速く見えるのです。

例えば、拳銃弾の速度は約毎秒300メートルですが、人間の目はこの速度に全く追いつきません。しかし、離陸するロケットの速度は毎秒キロメートルで計算されているのに対し、人間の目は銃弾の速度より10倍以上速いロケットの姿を簡単にとらえることができ、かえって、ロケットがゆっくり飛んでいるように感じます。つまり、異なる空間範囲内にいる時、時間や速度の感じ方も異なるということです。

視界の範囲が異なると、人間の認識にも違いが生じる可能性があります。例えば、昔は、真っ直ぐ歩いて行くと、どんどん遠くなると思われていましたが、その後、衛星写真を通じて、地球が丸いことが分かり、そのため、真っ直ぐ歩き続けると、一周して、再び原点に戻ってくることがわかりました。

実際、生活の中で足元の地面が丸いと感じる人はほとんどいませんが、宇宙などの大空間から見ると、直線は皆曲線なのです。つまり、人が部分環境にいる時と全体的に見る時の認識は大きく異なるのです。

位相幾何学の中でメビウスの帯と呼ばれる典型的な構造があり、帯状の長方形の片方の端を180°ひねり、他方の端に貼り合わせた形状の図形です。仮に全体を見渡せないほど非常に大きなメビウスの帯があるとします。その場合、一見二つ面があると認識しますが、しかし、全体図を見た時、二つの面が実は一つの面だったと分かるでしょう。ここでは、「二」は「一」の一部なのです。非常に不思議なことでしょう?

メビウスの帯、一つの面と1本の線でできた曲面(パブリックドメイン)

 

もちろん、ここでの「一」は一般的な概念の中の「一」ではありません。このリングは元々二次元の平面ですが、ねじった後、三次元になりました。仮に二次元の概念しか持たない生き物がこの帯の上で歩き続け、最終的に原点に戻った時、経路の構造について様々な可能性を推測しますが、しかし、二次元の概念しかないので、まさか三次元の空間にいるとは思いもしないでしょう。この「一面」を理解するためには、立体的な概念を持ち、全体的に見なければなりません。

透視投影学と相対性の問題は、専門家にとって非常に重要なことです。人間の目は、色と形状への認識は主に視野の中心に集中しているので、中心から離れると、見た画像が歪んでしまいます。そのため、透視投影では人間の視野に限界があります。

現在の視覚理論では、眼球が静止している時の垂直方向の視野は、中心線から上30度、下40度、水平方向の視野は、中心線から左右30度ずつ、合わせて60度以内の範囲が、人間が正確的に色や輝度を識別できる範囲とされています。ここでこの範囲を中心視野とします。

つまり、観察対象の位置がこの範囲を超えると、正確さが下がり、学校で教えられた線遠近法(一般的な遠近法で、画面に直交すると想定される平行線を一点に集束させて描く方法)が適用できなくなります。そのため、美術の先生は写生を教える時に、モデルや静物から一定の距離を保つように生徒に要求しています。近すぎると、対象物は中心視野を超えてしまい、物体が歪んで見えるからです。

(つづく)

(翻訳編集 季千里)
 

Arnaud H.