ともに片足の夫妻が「支え合って生きる幸せ」

ベトナムハノイから、温かいこんな便りが届きました。

日曜日の公園に、元気な男の子をあやす若い夫婦がいました。
その若い夫婦の脚は「二人で二本」でした。つまり夫は左足がなくて義足を装着し、妻は右足を失っていたため松葉杖を使っているのです。
(夫婦の写真は、こちらからご覧ください)

夫のドゥアン・グゥバオさんは29歳。現在は、フリーメディアで映像編集の仕事をしています。
妻のドゥアン・レィトゥさんは28歳で、以前はベトナムの教育省に務めていました。

グゥバオさんは、象皮病という珍しい難病のため、腫れあがった左足を手術で切断しました。レィトゥさんは、年の離れた7カ月の妹を抱いて道を歩いていたとき、ショベルカーにぶつけられるという不慮の事故に遭い、右足を失ったのです。

それぞれが、あまりにも不幸な人生に直面した当時は、もちろんお互いを知る仲ではありませんでした。ただ、将来結ばれて夫婦になるこの若い男女には、一つの共通点があります。それは、「どんなに辛い境遇にあっても、決して希望を失わない」ということです。

二人が出会ったきっかけはフェイスブックでした。右足を失ったレィトゥさんが、ベッドに横たわって携帯電話をながめていると、驚くようなフェイスブックの写真を見たことです。病気のため左足をなくした若い男性が、義足をつけてマラソンを走っている写真です。

レィトゥさんは、フェイスブックのプロフィールから、その男性のことを深く知りました。彼は、根っからのスポーツ好きのため、ランニングのほかに水泳登山、片足でのスケートまで、何でもやります。生き生きとスポーツを楽しむ男性の表情に、レィトゥさんはとても感動しました。

レィトゥさんからSNSを通じて連絡をもらった彼(グゥバオさん)も、彼女にとても好感をもちました。二人は自然なかたちで、チャットを交わす友人になります。

それは二人にとって、片足を失うという大きな不幸を乗り越え、新しい人生への第一歩を踏み出すことになりました。

二人が直接会うことができたのは、ずいぶん時間が経ってからでした。実は、何回もその機会を作ろうとしたのですが、お互いの都合が合わず、なかなか実現できなかったのです。

ところが、それが功を奏したのでしょうか。初めて会った時にはすでに二人の気持ちは燃え上がっており、互いを愛して止まないほどになっていたのです。人の縁というのは、実に不思議なものです。

二人は2020年3月12日に結婚しました。
その誓いは「二人で支え合って生きていく」です。
まもなく、二人の愛の結晶である息子、ドゥアン・ミントゥ君が生まれます。

レイトゥさんは出産する前、やはり不安でした。初産で慣れないこともあり、出産予定日が近づくとお腹が張って痛むこともありました。夫のグゥバオさんは優しかったのですが、彼も義足の身であるため、「夜中に陣痛が起きたらどうしよう。私を支えて病院へ運んでもらえるかしら」と、とても心配だったのです。

さいわい近所の人の助けも借りて、レィトゥさんは無事に出産できました。夫と同じくらい元気な男の子です。

子供が生まれて親となった二人は、質素な生活でしたが、人生最高の幸せを感じていました。本当に「この人と結婚して良かった」と、お互いに思っていたのです。

ところが、現実には厳しい状況が待ち受けていました。例の中共ウイルス(新型コロナウイルス)拡大により、ベトナムの都市部でも人の活動が極度に制限されてしまいます。
そのため夫のグゥバオさんは、一時的に職を失い、収入が激減してしまったのです。

若い夫婦が、その困難な状況に不安を感じなかったわけではありません。焦ってイライラすることも、もちろんありました。

しかし、これまでも大きな困難を乗り越えてきた二人は、すぐに気持ちを切り替えて、この「休暇」をできるだけ利用しようと考えました。家のなかで過ごす時間も、夫婦はお互いを気遣うように努めました。そして若い父親と母親は、愛する息子のために、多くの絵本を読んで聞かせました。

現在、ベトナムでもコロナ禍はまだ続いていますが、さいわいグゥバオさんは、仕事を再開できました。

「息子には、できるだけ栄養のある食事を与えるようにしています。私たち自身は、べつに何を食べてもいいのですから」と、母親のレィトゥさんは言います。

「息子は天からの贈り物です。この子は私たち夫婦が懸命に働いて、幸福な人生を送るための原動力なのです」

(翻訳編集・鳥飼聡)