中国薬理学から考える

なぜ食材が薬となるのか 

【再掲載】

ナスは、現代医学の観点からは単なる野菜、食材であり、薬ではありません。しかし、伝統的な中国医学では、薬として使用することができるため、薬膳という考え方があります。

では、なぜ食材が中国医学では薬になるのでしょうか?実際、中国医学の視点からは、何でも薬になり得るとされています。

中国伝統医学の薬理学、例えば『本草綱目』では、ナスが血行を促進し、瘀血(おけつ:漢方で、停滞している状態の血液。古い血がとどこおること)を散らし、痛みを止め、腫れを消し、腸を広げる効果があると記されています。また、『滇南本草』では、ナスが血を散らし、解毒し、乳の痛みを止め、腫れを消し、腸を広げる効果があるとあります。しかし、これらの効果があるのは、「性味・歸経」の薬理学によるものです。この薬理学は、中国伝統医学が病気を治す際に人体の経絡というエネルギー・気機に基づいていることに根ざしています。

「性味(「酸」「苦」「甘」「辛」「鹹」の5味)・歸経(統一)」の性というと、ナスでは、寒涼性を指し、陰陽の中の陰性エネルギーに属します。陰陽とは、宇宙、生命、万物を進化させ、絶えず運行する2種類の基本エネルギーです。味とは、五行が生み出す塩辛い、苦い、酸っぱい、辛い、甘いという五つの味を指します。

陰陽はまた、自然界の水、火、木、金、土という五つのエネルギーに変化することができます。これらは五行と呼ばれます。そして、すべての生命はこの五行に基づき、人体では五臓系統を中心とした経絡システムに現れます。

それゆえ、中国伝統医学では、ナスは性が寒涼、味は甘いと説明されます。また関連する経脈の働きや臓器機能に作用を及ぼすことがわかり、治療や養生の効果があることが分かります。つまり、ナスの「性味・歸経」の理解が、中国伝統医学における治療効果や健康効果の達成に重要な役割を果たしているのです。

それになぞると、ナスは甘みがあり、五行では土に属し、そのため脾経、胃経、大腸経に入り、自然に脾、胃および大腸の機能を調整する働きがあることが分かります。

ナスは寒涼性であり、女性は注意が必要

日本東洋医学会の中医師で岡山倉敷平成病院・平成鍼灸治療院院長の甄立学氏は、ナスは寒涼性の食物であるといいます。夏に食べると、熱をさまし、暑さを解消する効果があります。また便秘、痔瘻の出血、湿熱を持っている人、また汗疹や腫れ物ができやすい人には特に適しています。

「しかし、女性は陰性の体質であり、それ自体が寒性に偏っているため、寒涼性の食物を頻繁に摂取することは適していません」と甄立学氏は注意を喚起しています。「また、脾胃が虚弱で下痢や便溏(べんとう:緩い便)が起こりやすい人は、摂取を控えるべきです。手術前にもナスを控えましょう。麻酔薬が正常に分解されず、患者の回復時間が遅れ、回復速度に影響を与える可能性があります」。

甄氏は、伝統的な中国医学は、食物の薬用価値だけでなく、その弊害を避ける方法も教えてくれると指摘しています。これは伝統的な中国医学の優れたところです。

ナスには生姜を
体の中心部を温め、寒さを追い払う

寒さに弱い体質の人がナスを食べる場合、少量の生姜を添えることがお勧めです。生姜もナスも脾胃経に入るので、生姜が温性で、ナスの寒涼性を調和する効果があります。

これが、日本人がナスを食べるときに生姜を好む理由であり、中国人がナスを食べるときに生姜やニンニク、花椒などの香辛料を好む理由です。多くの香辛料は熱性や温性の性質があります。食欲を促進するだけでなく、寒さを取り除き、人体のエネルギーを中和し、陰陽のバランスを保つのが主な目的です。

そのため、食べ物を摂取する際に陰陽の調和を理解し、健康を維持し、利益を追求し、害を避けることが重要です。

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。