コロナ感染による迷走神経の炎症が自律神経失調症につながる:新研究

新型コロナ後遺症に苦しむ人々の光明となる新たな研究論文が、神経病理学の専門誌「Acta Neuropathologica」7月号に掲載されました。 

論文では、新型コロナウイルス感染症が自律神経系を損傷して炎症反応を引き起こし、その後、コロナ後遺症患者にみられる自律神経失調症につながる可能性があることが示唆されました。

コロナ後遺症の症状には、疲労、立ちくらみ、思考力・集中力の低下や記憶障害、認知障害、胃腸の不調、動悸、息切れ、または直立姿勢に耐えられないことなどが含まれます。

新たな研究結果

ドイツのハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターの研究者らは、新型コロナウイルス感染症で死亡した患者27人と、新型コロナ以外の原因で死亡した5人の対照群の迷走神経を顕微鏡で分析しました。

迷走神経は、消化、呼吸、心拍数、免疫反応など、生存に欠かせない機能を調節する自律神経系を構成している重要な神経です。脳幹への迷走神経信号は、炎症への反応として脳によって引き起こされる「疾病行動反応」も制御しています。この反応は、吐き気、疲労、痛み、その他の慢性症状などインフルエンザのような症状として現れます。

研究者らは、重篤なコロナ感染により死亡した患者から採取した迷走神経のサンプルから、新型コロナウイルスのRNAを検出し、神経への直接感染が、主に単球(細菌を見つけて破壊し、感染した細胞を排除する白血球の一種)からなる炎症細胞浸潤を伴っていることを示しました。解析の結果、「抗ウイルス反応とインターフェロンシグナルを制御する遺伝子が強く濃縮されている」ことが明らかになり、迷走神経の炎症がコロナに共通する現象であるという考えが裏付けられました。

研究者らはまた、死亡したコロナ患者の迷走神経サンプル23個を、新型コロナRNAウイルス量によって低、中、高に分類し、迷走神経でウイルスが直接検出可能かどうか、また、ウイルス量と迷走神経機能障害に相関関係があるかを調べました。その結果、ウイルスは迷走神経に存在し、また新型コロナRNA量と中枢神経系の機能障害には直接的な相関があることが判明しました。

次に研究者らは、2020年2月13日から2022年8月15日までに緊急治療室に入院した323人の患者を検査し、軽度、中等度、重度、重篤、または致死性の新型コロナウイルス感染症に罹患していたかどうかで分類しました。研究者らは、重症化したコロナ感染症の生存者では呼吸数が増加したが、非生存者では呼吸数が減少したことを発見しました。これらの結果が示唆するのは、新型コロナウイルスが迷走神経の炎症を誘発し、続いて自律神経失調(呼吸数の低下)を引き起こすことが、疾患の重篤な進行の原因となり、コロナ後遺症にみられる自律神経失調症を引き起こす可能性があるということです。

この研究に対して、ポリバイオ研究財団の微生物学者エイミー・プロアルは、X(旧ツイッター)に次のように書いています。

「迷走神経は自律神経系の重要な構成要素であり、心拍数、消化、呼吸数などの身体機能を調節しているため、新型コロナウイルスの神経への直接感染は、こうした身体機能に関連する症状の一因となる可能性がある。こう考えると、次のような疑問が浮かんでくる。迷走神経への新型コロナウイルス感染の持続は、コロナ後遺症における自律神経失調症の一因となりうるのではないか?」

自律神経失調症とは何か?

米国ではほぼ5人に1人が、コロナ感染が終った後も長期間にわたる原因不明の症状に苦しみ続けており、患者の66%もが自律神経失調症といわれる中等度から重度の自律神経系の機能失調に苦しんでいます。

自律神経失調症は、呼吸、心拍数、血圧、消化、皮膚と体温の調節、唾液分泌、ホルモンと膀胱の機能、性機能などの重要な不随意機能を制御する中枢神経系の一部である自律神経系の障害です。自律神経系はまた、闘争・逃走反応においても役割を果たすほか、内臓との間でメッセージをやり取りします。

自律神経失調症は、交感神経系、副交感神経系、腸管神経系で構成される自律神経系の機能不全を引き起こし、その役割を妨げたり、過剰な活動を引き起こしたりして、高血圧や心拍数の上昇を引き起こします。 この状態は腕と脚に限定される場合もあれば、全身に広がる場合もあります。 また、重度の場合もあれば軽度の場合もあり、時間の経過とともに回復する場合や悪化する場合もあります。

体位起立性頻脈症候群(POTS)は、自律神経失調症によくみられる現象ですが、コロナのパンデミックが始まって以来増加しており、コロナの後遺症患者や、新型コロナワクチン接種者から報告されています。

POTSの症状には、めまい、思考や集中の困難、重度かつ長期にわたる疲労、運動不耐症、視界のかすみ、低血圧、動悸、震え、吐き気などが含まれますが、これだけに限られません。

新型コロナワクチンの導入以来、7月28日の時点で801件のPOTS症例がワクチン有害事象報告システムに報告されました。ファイザー製ワクチンに起因するのは597件で、モデルナ製ワクチンに起因するのは171件でした。

自律神経失調症の治療法

医学界における自律神経失調症の治療法は、医薬品および非薬理学的手段を使用して症状を管理し、誘発要因を回避するものです。

心血管自律神経失調症

心血管系に影響を与える自律神経失調症については、神経学に関する学術誌「Frontiers in Neurology」掲載の2022 年の研究で次のことが推奨されています。

  • 朝起きる前に水を飲む
  • 睡眠中は頭を高くする
  • 水分と塩分の摂取量を管理する
  • コンプレッションウェアを使用する
  • 段階的な有酸素運動に取り組む
  • 睡眠不足、熱への曝露、大量の食事、アルコール摂取といった、症状を悪化させる状況を避ける

失神を防ぐには、足を組む、筋肉を緊張させる、しゃがむなどの身体動作を行いましょう。非薬理学的な手法で効果がみられない人には、心拍数を抑制する薬剤、血管収縮薬、交感神経遮断薬、静脈内輸液を含む容量拡張薬を処方する場合があります。

体位性頻脈症候群(POTS)

「Frontiers」誌の研究では、POTSの患者に有効なのは、水分補給と1日小さじ1~2杯の塩分補給、カフェインやアルコール摂取、長時間の立ち仕事や暑い環境、脱水などを避けることだとされています。寝た状態や座った状態から立った状態への移行は慎重に行うことが勧められています。

薬物療法としては、交感神経の働きを抑えて心臓の動きを少し休めるβ遮断薬、血圧を上昇させる起立性低血圧治療薬、心拍数を低下させるプロプラノロール、一般に筋力の低下している患者の治療に用いられるピリドスチグミンなどがあります。しかし、薬物療法の有効性は低く、重い副作用を伴う薬剤もあります。

コロナ後遺症またはコロナワクチン後遺症との関連

2020年に一流の救命救急専門医によって結成された非営利団体であるFLCCCは、自律神経失調症の患者を含むコロナ後遺症やコロナワクチン後遺症の治療において大きな役割を果たしてきました。

コロナ後遺症患者の多くはワクチン接種を受けているため、後遺症の症状が新型コロナウイルス感染症によるものなのかワクチン接種によるものなのかを判断することが困難となっています。いずれにせよ、FLCCCによれば、どちらも「スパイクタンパク質関連疾患」の症状であり、症状、病因、治療において重複している部分が多くあるといいます。

FLCCCは、新型コロナウイルス感染症に長期間罹患している人や、POTSを含むワクチン後遺症を経験している人向けのプロトコルを開発しました。

彼らは患者に対し、コロナ後遺症かどうかを判断するために一連の初期検査を受けることや、呼吸器症状がある患者にはコロナ後遺症とワクチン後遺症を区別するために胸部スキャンを受けることを推奨しています。

プロトコルは、コロナ後遺症またはワクチン後遺症(POTS などの自律神経失調症を含む)を対象とし、医師の監督の下で実施されます。

その他の自律神経失調症の治療法

「Frontiers in Neurology」誌に掲載された別の研究では、超音波やその他の技術を使用した非侵襲的な神経調節が、自律神経失調症の患者に有益である可能性があることがわかりました。

これらの非侵襲的治療法は、筋骨格系の痛みや全身疲労を軽減し、認知障害、神経障害の改善や身体のリハビリ促進に効果があることが示されています。

政治学の背景を持つ弁護士兼調査ジャーナリスト。栄養学と運動科学の追加認定を取得した伝統的な自然療法医でもある。