手術が高齢者の認知機能低下と性格や行動の変化に関連

麻酔で起こる精神障害、あまり知られていない副作用(下)

合併症のリスクに向き合う

スタンフォード大学とハーバード大学で学んだ麻酔科医で、統合医療の専門家でもあるカヴェ博士は、独特の視点から、手術への耐性は患者の「予備力」と大きく関係していると説明します。同氏の説明によれば予備力とは、血流の変動、組織損傷、その他の外傷に加わった時に、どの程度まで耐える能力があるかを示す用語だといいます。

予備力は栄養、体力、前向きな心理社会的特性によって向上します。しかし、心臓の予備力が検査可能であるのと異なり、認知面の予備力の評価はより複雑であるとカヴェ博士は述べます。つまり、麻酔後の患者のせん妄のリスクを完全に判断するのは難しいということです。

麻酔は単に人を眠らせるだけだと考える人もいるかもしれませんが、実際はそれよりずっと影響力があります。

「脳と中枢神経系の電球を消すのであり、単に眠るのとは違います。頭に電極を付けると、人々が眠っているときに見られる脳波の特徴とは異なり、昏睡状態に近い事が分かります」とカヴェ博士は語りました。 

麻酔科医は、少なくとも緊急事態以外の場合には、術前検査に依拠して麻酔を処方します。その検査は、初めて行く家庭医から受ける一次診療に近いとも言えます。麻酔科医は、薬剤の服用歴、サプリメント、体調、過去の手術、診断、食事、身体活動、薬物使用、そして最も重要なのは、手術に関連する不安やその他の一般的な不安について、熟知する必要があります。

これらすべてが、手術中に使用される麻酔薬のさまざまな種類と用量を決定します。麻酔薬は痛みを軽減し、体を昏睡状態に保ち、術後のせん妄を軽減し、さらには一時的な健忘症をも誘導できる、ガスと薬剤の組み合わせです。

同じ混合麻酔薬を使用する患者は二人とおらず、麻酔の処方は多くの変数に応じた個別のアプローチとなります。

「医師は様々な角度から手術を行わなければなりません。そのために、私たちは何年も学校に通い、安全な投与量を学び、体の機能を維持して術後にちゃんと目覚められるようにするために、身体の状態の段階評価に基づいてどのように蘇生させるかを知る必要があるのです」とカヴェ博士は語りました。

現実には、最適な心理的健康状態にない患者は、より多くの合併症のリスクに直面します。その理由は多くの場合、不安に対処するために処方薬や違法薬物(マリファナが最も一般的)を摂取する傾向があり、麻酔の必要性が高くなるからだとカヴェ博士は述べました。

同氏は「中枢神経系がより増幅されたり、麻痺したりすると、より多くの麻酔が必要になることを示唆する研究が確かに存在する」と言います。

脳を保護するための措置

世界脳健康評議会の報告書は、患者とその介護者が麻酔によるリスクを下げるためにできること、例えば自分の不安レベルについて正直になるなど、数十の方策を詳しく記載しています。

カヴェ博士は、麻酔薬をわかりやすく説明するために人気の YouTube動画のライブラリを作成しました。その中には、微量の麻酔薬を補完するために催眠術を使用した患者の話もあります。 肯定的なアファメーション(自己暗示)などの技術でも不安を和らげることができ、カヴェ博士は動画で呼吸法の実演もしており、呼吸法が心拍数にどのように影響するかを見せています。

ハッチ博士は、患者が前向きな考え方をもち、視覚化の技術を使えば、麻酔を含め医薬品を使う必要性を下げることができると述べました。

その他の役に立つアイデアとしては、補聴器、眼鏡、入れ歯、普段の薬やサプリメントなど使い慣れたものを家から持ち込むことが挙げられます。しっかり食事をし、日光を浴び、睡眠を優先し、できるだけ早く通常の生活に戻ることも重要です。

術後の認知リハビリテーションの重要性は、ますます多くの専門家や外科医が認識するようになっています。整形外科やその他の手術を受ける患者が手術直後に立ち上がって動くように指導されるのと同じように、クロスワードパズルやその他の認知面の活動を行うことがせん妄の予防に役立つ証拠があるとハッチ博士は述べました。

「これらのことのほとんどは、リスクも、多額の費用も、さらには投薬も必要としません」とカヴェ博士は言います。 「これらの対処は、患者を尊厳をもって、人間性が守られるように扱うことにほかなりません。手術後の患者、特にリスクにさらされている患者に対してそれができて、家族がやさしく守ってあげられれば、手術で人々が受ける精神的な負担を大幅に軽減できるでしょう」

実際、睡眠と周囲のサポート体制は、せん妄を防ぐ2つの重要な方法のようです。病院スタッフは薬を与えるために眠っている患者を定期的に起こし、さらに病院の設備のさまざまな電子音が睡眠を妨げます。「Anesthesia & Analgesia」誌の記事によると、術後に入院している人にとって、睡眠の中断を最小限に抑えることが重要です。

「このことは、自然な睡眠の回復特性が周囲のサポートに加えて回復のための鍵になっている高齢の患者にとって、特に重要です。家族の関与と社会的支援が術前の早い段階で実施されるべきです」と記事は述べています。

薬物の解毒

自然療法医のロジア・パリッシュ氏は、麻酔に内在するリスクと副作用は、手術前後に体の抗酸化力を高めることで相殺できると述べました。

「麻酔は、細胞を酸化ストレスから守る重要な抗酸化物質であるグルタチオンを枯渇させます。グルタチオンレベルの低下は、手術後の体の治癒能力を妨げる可能性があります」とパリッシュ氏はメールで大紀元に語りました。

グルタチオンの枯渇は免疫システムを弱め、筋力低下や痛み、関節の不快感、さらにはブレインフォグと呼ばれる認知能力の低下、集中力の低下、記憶障害などの認知問題を引き起こすとパリッシュ氏は述べました。また、グルタチオンは神経伝達物質の調節に関与するため、細胞の損傷による疲労やエネルギーの低下、さらには気分の悪化を引き起こし、不安やうつ病につながります。

彼女は、麻酔後の身体の解毒プロセスを促進するために、ミルクシスル、N-アセチルシステイン、クルクミン、グルタチオン、ビタミンC、タンポポの根、クロレラ、スピルリナ、ゴボウの根、イラクサ、コリアンダー、ショウガ、緑茶などを勧めています。

カヴェ博士は、薬物を解毒する最善の方法は、そもそも大量の薬物を必要としないように、まず健康であることだと語りました。

ハッチ医師によると、サプリメントによっては薬と相互作用を起こす可能性があります。したがって摂取予定のサプリメントについては必ず医師または麻酔科医に相談してください。特に体内からの薬物除去のプロセスを遅らせるような腎臓や肝臓の問題を抱えていない人にとっては、手術後にあえて解毒しなくてもまったく問題はないと同氏は述べました。

「麻酔を完全に取り除けるような魔法の薬はありません」とハッチ博士は言います。

追記: せん妄の詳細

これまでのエビデンスと研究に基づいて、世界脳健康評議会はせん妄に関する次のような既知の事実を明らかにしています。

  • せん妄は現れたり消えたりし、数時間または数日でまったく異なる形で現れることがあります。
  • せん妄は数日、数週間続くこともあれば、永続的に続くこともあります。
  • せん妄は、怪我、病気、手術、脱水症、感染症、薬の変更後に最も一般的に見られます。
  • せん妄はしばしば見落とされたり、誤診されたり、不適切に管理されたりします。
  • 多くの医療従事者はせん妄について気づいていません。
  • せん妄は他の健康上の問題の兆候である可能性があります。
  • せん妄は、転倒、入院の長期化、自立した生活の喪失につながる可能性があります。
  • 聴覚や視覚の問題、虚弱、基礎疾患、アルコールや薬物乱用、オピオイドの使用はせん妄の危険因子です。