ウイルスと戦う上で抗体は必須ではない 免疫力を変化させる可能性さえある

麻疹(はしか)ワクチンがいかに自然免疫を変える?「抗体」は本当に必須か(下)

重篤な脳疾患と関連している可能性

麻疹ワクチンに使われている弱毒化されたウイルスは、脳にも影響を与える可能性がある。

麻疹ウイルスには免疫抑制作用があり、神経系で合併症を引き起こす。麻疹感染後の重篤な脳疾患には亜急性硬化性全脳炎(SSPE)があり、脳脊髄液や血清中の抗麻疹抗体の量が異常に多いのが特徴だ。

SSPEは麻疹に罹患してから数年後に発症することがあり、進行性の思考障害、運動障害を引き起こし、最終的には昏睡状態に陥り死に至る。

1967年以来、麻疹ワクチン接種後の脳に関連した問題が報告されている。その後の調査では、脳組織の炎症である脳炎に焦点が当てられた。

各国のレトロスペクティブスタディ(後ろ向き研究)を含む観察研究では、麻疹ワクチン接種後に脳症または脳炎を発症した症例が報告されている。麻疹ワクチンに関連した脳症の発生率は、100万回接種あたり約1〜11例と計算される。

2003年、アルゼンチンの研究者らは、1998年の麻疹流行時に生後6か月から10か月に麻疹にかかった8人の子供を調査した。子供は1年以内に麻疹ワクチンの初回接種を受け、4年後にSSPEを発症した。

脳には広範な組織障害が認められ、血液と脳脊髄液には高濃度の抗麻疹抗体を検出した。脳組織におけるこの異常に高い抗体レベルは不穏な警鐘を鳴らしており、潜在的な要因として麻疹ワクチンをさらに調査する必要性を示している。

1970年代には、麻疹自然感染後の小児100万人あたり5〜10例あるいは5〜20例のSSPEが報告された。しかし、21世紀に入り、その発生率は麻疹患者100万人あたり40〜110人にまで増加した。

しかし、なぜこれほどまでSSPEのリスクが増加したのだろうか。納得のいく説明はない。世界的な麻疹ワクチン接種プログラムは1960年代後半から義務付けられたが、1981年にはほぼ完全に廃止した。麻疹ウイルスが脳疾患を引き起こす可能性がより高いとする報告はない。

研究者らは、ワクチン接種をためらい、集団免疫の欠如を招いたので、その後SSPEを引き起こしたと非難している。しかし、SSPEの原因をワクチン接種率の低さだけに求めるのは合理的ではない。SSPEは免疫の変化を示す、さまざまな免疫因子によって引き起こされた可能性がある。

ほとんどの人はSSPEを麻疹の合併症のみを起因と考えるが、現代のワクチン接種は通常、麻疹感染中に行われるため、SSPEをワクチンと結びつける人はほとんどいない。とはいえ、麻疹ワクチンの役割は慎重な調査が必要だ。

また、麻疹ワクチンがSSPEを引き起こすにしても、小児への接種100万回あたり0.5〜1.1例だけだと主張する人もいる。しかし、麻疹ワクチンに関連した有害事象の報告は実際よりも著しく少ない。

ワクチンの有害事象を追跡するには、受動的な方法と能動的な方法の2つがある。米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)のように、システムが受動的に患者の報告を集めていると、結果として有害事象の報告は低い。

イタリアのプッリャ州では、MMRVワクチン初回接種後の有害事象を積極的にモニタリングし、接種千回あたり462件の有害事象を発見した。うち11%は重篤とみている。これらの重篤な有害事象のうち、接種千回あたり38件がMMRVワクチンと直接関連していた。イタリア医薬品庁の受動的な報告システムに報告された割合よりもかなり高い。

自閉症との関連性

1998年の『ランセット』誌の研究では、それまで健康だったにもかかわらず、消化管の慢性炎症と自閉症を含む 発育遅滞を発症した12人の子供を調査した。これらの子供の両親と医師は、自閉症の発症と麻疹ワクチン接種を関連づけている。

12人のうち8人はMMRワクチン接種を受けていた。MMRワクチン接種から症状発現までの平均期間は6日、1~14日間の幅があった。

研究では、病歴や検査記録、神経学的記録、組織学的記録が示されている。研究者らは麻疹ワクチン接種との潜在的な関連性を示唆した。

興味深いことに、少なくとも4人の患者に血清抗体値に異常がみられた。著者らは自己免疫と患者らの疾患と潜在的な関連性について論じており、より多くの研究を行うべきであると結論づけた。

麻疹ワクチンが、ワクチン接種を受けた小児に免疫学的・神経学的合併症を引き起こしたかを明らかにするには、科学的な議論の促進とさらなる臨床研究が不可欠だ。これこそが真相を突き止め、正確な情報を得る唯一の方法だ。

この『ランセット』誌の論文は、科学的価値があるにもかかわらず、政府と業界に抑えられたメディアによって撤回を余儀なくされた。メディアは、ワクチン接種率の遅れは「信用できない」研究のせいだと不当に非難した。同様のことは新型コロナワクチンでも見られる。

麻疹ワクチンに関する合理的な考察

医療技術開発の基本原則は、「まず何よりも害をなすなかれ」だ。理想は、健康へのリスクを最小限に抑えながら、ウイルスに対する免疫を強化するワクチンを求めている。ワクチンは、病気を治療するためではなく、病気を予防するため健康な人にを打つのだから、より大きな賭けなのだ。

安全性と有効性の理想的なバランスを実現したワクチンはまだない。それを認識することが重要だ。ワクチン開発は進歩しており、研究も広範に及んでいるが、内在する限界と複雑さを克服しなければならない。

侵入してくるウイルスと効果的に戦うには、私たちの免疫系が産生するレベルの高い抗体が極めて重要だ。この事実は広く認められている。しかし、麻疹の場合、抗体はウイルスを殺すのに必須ではないので、不必要に抗体を注射することで短期的にも長期的にも害を及ぼす。さらに悪いことに、ワクチン接種の原則に対する誤解やその誤用が、現在進行中のウイルスとの戦いを脅かしている。

過去3年間、感染症の世界的な大流行の最中、効果が証明されていない新たなmRNA技術が導入された。多くの人々がその実験台となることを余儀なくされたが、残念ながら、多くの人々がこの実験による未知の長期的影響を被っている。

麻疹ワクチンをめぐる現行のナラティブは多面的だ。麻疹ワクチンは疾病予防の一翼を担ってきたが、その有効性は、栄養摂取、自然免疫、公衆衛生対策といった他の介入策ほど重要ではない。先に述べたように、安全性における重大な懸念に注意することが重要だ。

科学界はワクチンに関する懸念をオープンに議論する自由を欠いている。問題は、有意義な対話を通じて、検閲のない科学的なエビデンスを厳密に検証することだ。透明性を確保し、説明責任を果たすことが必要だ。

人間の免疫システムの複雑さ、複雑な生物学的メカニズムを認識することが最も重要だ。ワクチンは理論的に免疫系をサポートできるが、その効果は最終的には体内の要因に依存する。将来の病原体に備えるためには、自然免疫を高める努力を含む包括的なアプローチが不可欠となる。

結論としては、ワクチンの安全性と有効性について細部に至るまで理解し、オープンな対話を行い、十分な情報に基づいて決定を下すことが不可欠だ。現在のワクチン接種戦略の限界を認識し、免疫と疾病予防に対する総合的なアプローチを取り入れることだ。そうすれば、私たちは刻々と変化する公衆衛生の複雑な状況下でうまく舵を取れるだろう。

エポックタイムズのシニアメディカルコラムニスト。中国の北京大学で感染症を専攻し、医学博士と感染症学の博士号を取得。2010年から2017年まで、スイスの製薬大手ノバルティスファーマで上級医科学専門家および医薬品安全性監視のトップを務めた。その間4度の企業賞を受賞している。ウイルス学、免疫学、腫瘍学、神経学、眼科学での前臨床研究の経験を持ち、感染症や内科での臨床経験を持つ。