「幽霊」が暴露した2つの冤罪 その判決は如何に(下)

(続き)
 

「ニセの幽霊」が総督を騙した

ある夜、総督(総司令官)である唐執玉が灯火の前に1人でいたとき、突然かすかな泣き声が聞こえてきました。その泣き声は、だんだん窓に近づいてくるようです。唐執玉は、侍女を呼び「誰が泣いているのか。ちょっと見てきなさい」と指示しました。

侍女は外に出た途端、絶叫して倒れてしまいました。唐執玉が急いで玄関へ行ってみると、血まみれの幽霊が石段の下にひざまずいています。驚いた唐執玉に向かって、幽霊はこう言いました。
「私を殺した犯人は(乙)です。ところが県の裁判官は、(甲)を犯人だと誤審してしまいました。私の恨みは晴れていません。これでは死んでも死にきれないのです」

唐総督は、確かにそのような事案があったことを思い出し、幽霊に向かって「分かった」と言いました。幽霊はそれを聞くと、すぐに壁を越えて消えました。

次の日、唐総督はさっそく例の事案を再審議にかけました。唐総督は、遺族たちが証拠として供出した故人の衣服や靴を見分しました。それらは確かに、昨晩の幽霊が着ていたものと一致しています。

そこで唐総督は「この殺人案件は、(甲)ではなく、(乙)によってなされたものだ」として、一審の判決を取り下げました。

これを聞いた一審の裁判官は「(甲)が犯したという確かな証拠がある。誤審は、ありえない」と考え、唐総督の判断に控訴を申し出ました。しかし、唐総督は「南山を動かすことができても、この判決は変えられない」と答えて、あくまで自身の判断を主張するのです。

そうしたやり取りのなかで、唐総督の幕僚のなかで、やはり不審に思った人物がいました。その人物は、ことの真偽を確かめるため、唐総督から聞いた幽霊の話が本当であるかどうか、現地で確認しようと思ったのです。

幕僚は、夕方に唐総督の邸宅を訪れました。
「総督閣下がご覧になったその幽霊は、どのように消えて行きましたか」
「あのとき、幽霊は突然、壁を越えた」

これを聞いた幕僚は、1つの答えを得て、総督にこう告げました。
「閣下。幽霊というものは、目には見えても実体はございません。本当に幽霊であるならば、そのまま消えます。壁を乗り越えることは、ないはずです」

それから幕僚は、唐総督とともに現場を見に行きました。その「幽霊」が通った道筋には、うっすらと泥の足跡が残っていました。

幕僚は、こう叫びました。「閣下。これはおそらく、いま収監されている囚人(甲)が、手慣れた盗人に金を渡して仕組んだものに違いありません!」つまり、あれは本物の「幽霊」ではなく、仕組まれた芝居だったと言うのです。

唐総督は、幕僚の言葉を聞いて少し考えると、自分が騙されていたことに気づきました。その次の日、唐総督は一審の判決に従い「殺人犯は甲である。それに変更はない」としました。

唐総督は、事件の捜査において「幽霊の話」だけを信じ、証拠に注意を払わなかったため、危うく誤った判断をしそうになりました。
いっぽう、江蘇司郎中の紀容舒と刑部主事の余文儀は、霊異的な超常現象に接しながらも冷静忠実に任務を遂行したため、冤罪となっていた一件を晴らすことができたのです。
 

(完) 

常山子