トウモロコシは、バーベキューの定番や映画の夜のおやつ以上の存在です。「黄金の作物」として長く親しまれてきたこの質素な穀物は、世界の人々を養いながら、ドライアイの緩和、腎機能のサポート、血圧の調整、さらには生分解性医療インプラントへの応用など、驚くほど多様な癒しの力を持っています。現代の科学と中医学の両方が、トウモロコシが体に栄養を与え、長期的な健康をサポートするさまざまな方法を明らかにしています。
ドライアイの緩和
トウモロコシには黄色種と白色種があり、特に黄色のトウモロコシには、ビタミンAの前駆体であるベータカロテンが豊富に含まれています。
2011年の研究によると、毎日300gの黄色トウモロコシと少量の脂肪を摂取することで、約1.2mgのベータカロテンを得ることができ、これは成人のビタミンA推奨摂取量の約40~50%に相当します。特にベジタリアンにとっては、ビタミンAの優れた供給源となります。
研究では、長期的なビタミンAの欠乏が、眼球乾燥症(ドライアイ症候群)のリスクを高めることが示されています。
ビタミンAが不足すると、まず結膜や角膜が乾燥し、その後炎症を起こし、最終的には潰瘍となって膿が出ることもあります。重症化すると、夜盲症を引き起こす可能性もあります。
ビタミンAは、体の多くの臓器や構造を覆う上皮組織の完全性を維持するうえで重要な役割を果たしています。上皮組織は、結膜や角膜、鼻腔、口腔、咽頭、消化管、呼吸器、胆管、膀胱、尿道、精管、卵管、子宮など、体のさまざまな部位に存在します。
ビタミンAが不足すると、これらの上皮表面は角質化して乾燥し、厚くなり、傷つきやすくなります。目の膜も上皮組織で構成されているため、ビタミンA不足によって特に乾燥しやすくなり、ドライアイ症候群の原因となり得ます。
同様に、呼吸器の上皮が変性すると風邪や咳などの感染症にかかりやすくなり、腎臓・膀胱・尿道の上皮が角質化すると、腎臓結石や膀胱結石のリスクが高まる可能性があります。さらに、胆管の上皮変化は胆石の形成に関与することも示唆されていますが、これらの関連性については今後の研究が必要です。
腎機能のサポート
重度のビタミンA不足は、腎臓結石のリスクを高めることと関連しています。中医学では、トウモロコシの根と「シルク」と呼ばれるヒゲ部分が、中医薬として使用され、腎機能のサポートや結石の排出に役立てられてきました。
2023年の研究では、トウモロコシの殻の下にある細い糸状の繊維「コーンシルク」が、腎臓結石の管理に有用である可能性が示されました。
中医学では、トウモロコシのシルクと根は、他の生薬と組み合わせて、腎臓結石や胆石といった症状に対応するために、長年利用されてきました。
トウモロコシの各部位の中でも、伝統療法で最も一般的に用いられているのが「コーンシルク」です。中医学においては、コーンシルクは「甘味」で「中性からやや温性」と分類され、利尿、止血、胆汁分泌の促進、血圧低下などの効能があるとされています。
また、コーンシルクは、伝統的に、そして一部の症例では臨床的にも、腎炎による浮腫、高血圧、糖尿病、胆のう炎、肝炎などの症状に対処するために使用されてきました。
研究によれば、コーンシルクにはポリフェノールやその他の抗酸化物質が豊富に含まれており、動物実験では腎臓の損傷を防ぎ、インスリン分泌を促進する可能性があることが示唆されています。これにより、血糖値の調整にも潜在的な効果が期待されています。
血圧、血糖値、コレステロールの管理
2016年に行われた臨床試験では、トウモロコシ油の摂取によって、血中コレステロール値――特に動脈硬化(動脈内にプラークが蓄積することで起こる硬化)と密接に関連する低密度リポタンパク質(LDL)コレステロールを低下させる効果が確認されました。
このようなコレステロール低下作用により、トウモロコシ油は、動脈硬化や冠動脈疾患、高血圧、脂肪肝、肥満などのリスクを抱える人々、特に心血管疾患のリスクが高い高齢者にとって、「心臓にやさしい脂肪」の選択肢として注目されています。
生分解性インプラントのサポート
トウモロコシは、生物医学の分野においても革新的な応用が進められています。そのひとつが、生分解性インプラントの製造です。トウモロコシ由来のデンプンを乳酸菌で発酵させることで、ポリ乳酸(PLA)と呼ばれる高分子量ポリマーが合成されます。PLAはしばしば「トウモロコシプラスチック」とも呼ばれています。
PLAは、骨ねじ、固定プレート、ピン、外科用縫合糸など、短期間の使用を想定した医療機器の製造に利用されています。これらのインプラントは、治癒の過程で必要な構造的サポートを提供しながら、体内で徐々に分解・吸収されるため、取り除くための二次的な手術が不要となります。
さまざまな症状を管理するための伝統的な治療法
肝炎、胆嚢炎、胆石
材料
- コーンシルク 30g
- ヨモギ 30g
- タンポポ 20g
調理方法
- すべての生薬をよく洗い、セラミック製または土鍋に入れます。
- 約1200mlの水を加えます。
- 沸騰したら弱火にし、液体が約480mlになるまで煮詰めます。
- できあがった煎じ薬は2回に分け、朝と夕方に1回ずつ服用します。
煎じ薬を服用した後に胃腸の不快感や下痢が起こる場合、それは処方に含まれる「冷たい性質」の影響である可能性があります。中医学では、生薬はそのエネルギー特性(冷・熱・温・涼)に基づいて分類されます。
冷たい性質の生薬は、体内の過剰な熱や炎症を鎮めるために使用されますが、冷えに敏感な人にとっては、摂取しすぎると不快感を引き起こすことがあります。そのような場合は、摂取量を減らすことが推奨されます。
糖尿病
材料
- コーンシルク 30g
調理方法
- コーンシルクを約960mlの水と一緒に鍋に入れます。
- 水が約480mlになるまで煮詰めます。
- 出来上がった煎じ液を2回に分けて、同じ日に飲みます。
注意:顕著な効果を得るには、10日間連続して毎日摂取することが推奨されます。必要に応じて、より長期間使用することも可能です。
慢性腎炎・浮腫・排尿困難
材料
- トウモロコシの粒 30g
- コーンシルク 15g
調理方法
- 材料を約1200mlの水と一緒に鍋に入れます。
- 水が約480mlになるまで煮詰めます。
- 出来上がった煎じ薬を2回に分け、朝と夕方に1回ずつ服用します。
肺結核
材料
- コーンシルク 60g
- 氷砂糖 適量
調理方法
- コーンシルクを約960mlの水と一緒に鍋に入れます。
- 水が半分になるまで煮詰めます。
- 好みに応じて氷砂糖を加えます。
- 出来上がった煎じ薬を2回に分け、朝と夕方に1回ずつ服用します。
血尿
材料
- コーンシルク:30g
- ナズナの花:30g
- 白茅根:30g
調理方法
- 材料を約1200mlの水と一緒に鍋に入れます。
- 水が約480mlになるまで煮詰めます。
- 出来上がった煎じ薬を2回に分け、朝と夕方に1回ずつ服用します。
夜間の発汗
材料
・トウモロコシの茎の髄(柔らかい白い内部) 適量
調理方法
- トウモロコシの茎の髄を約960mlの水と一緒に鍋に入れます。
- 約480mlになるまで煮詰めます。
- 出来上がった煎じ薬を2回に分け、朝と夕方に1回ずつ服用します。
淋病関連の尿症状
主な症状:頻尿、尿量の減少、下腹部や尿道に焼けるような痛み
材料
・トウモロコシの髄または根 90g
調理方法
- 材料をよく洗い、約960mlの水と一緒に鍋に入れます。
- 水が約480mlに減るまで煮詰めます。
- 出来上がった煎じ薬を2回に分け、朝と夕方に1回ずつ服用します。
トウモロコシ摂取の注意事項
消化機能が弱い場合の摂取制限
消化機能が弱い人は、トウモロコシの豊富な食物繊維が消化を難しくし、胃腸の不快感を悪化させる可能性があるため、大量に摂取するのは避けた方がよいとされています。
トウモロコシを長期間、唯一の主食とすることを避ける
トウモロコシには、一般的な調理法では体内に吸収されにくい「結合型ナイアシン(ビタミンB3)」が含まれています。
このため、トウモロコシを適切な処理を施さずに長期間にわたって主食として摂取し続けると、皮膚炎・下痢・認知症を特徴とする「ペラグラ」と呼ばれるビタミン欠乏症につながる恐れがあります。
しかし、少量の重曹を加えてトウモロコシを調理することで、ナイアシンが遊離し、吸収されやすくなるため、このリスクを軽減することが可能です。
腐ったまたはカビの生えたトウモロコシを食べないこと
湿気によってカビが生えた、あるいはその他の理由で腐敗したトウモロコシは、発がん性のあるマイコトキシン「アフラトキシン」を生成する可能性があります。健康への深刻な影響を避けるため、こうした状態のトウモロコシは決して口にしないよう注意が必要です。
体内に熱がこもりやすい体質の方はポップコーンを控える
ポップコーンは、糖尿病、更年期症候群、あるいは「陰不足による火の過活動」による乾燥症候群――体液の枯渇、手足のほてり、夜間の発汗、口の渇き、赤く乾燥した舌などを伴う状態――を抱える方にとっては、適さない場合があります。
ポップコーンを高頻度で摂取すると、高温で調理されることにより「内部の熱」が増し、こうした体質の人々の症状を悪化させるおそれがあります。
伝統と科学に根ざした癒しの穀物
新鮮なトウモロコシの穂を味わったり、トウモロコシのひげ茶を楽しんだり、あるいはトウモロコシ由来の医療技術から恩恵を受けるなど、トウモロコシは多用途な穀物であり、「食が薬になる」ことを示す力強い例です。
この「黄金の穀物」は、古代からのハーブ知識と現代科学の裏付けを併せ持ち、目、腎臓、代謝、さらには外科的な健康のサポートに貢献します。ただし、あらゆる療法と同様に、重要なのは「適度」と「個別化」です。
トウモロコシを活用したハーブ療法を試みる際には、事前に信頼できる専門家に相談し、バランスのとれたライフスタイルの一部として賢く取り入れましょう。
本記事で紹介した生薬の一部は聞き慣れないものもあるかもしれませんが、通常は健康食品店やアジアの食料品店で入手可能です。治療法の効果は個人差がありますので、具体的な治療計画については医療専門家にご相談ください。
(映像編集 日比野真吾)
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