日本庭園に関する最も古い主要な論文は11世紀に遡ります。それでも、自然の生命力を捉えるといった古代の設計原則のいくつかは今日でも使用されています。この庭園スタイルには、リラックスを促進する特に優れた何かがあるのでしょうか?
最近の研究によると、自然に触れることは前向きな感情を引き起こしますが、すべての緑地が同じように治療効果を持つわけではありません。著者達は、よく設計された日本の庭園が訪問者の視線をより遠く、より敏速に彷徨うように促し、心拍数の低下と気分の改善に関連していることを発見しました。自分の裏庭に同様のオアシスを作ることも可能です。
目の動きとストレスの軽減
『Frontiers in Neuroscience』誌に掲載されたこの研究は、どのようにして庭園の観察が、処方箋なしの方法で生理的および心理的ストレスの兆候を軽減するのかという理解を深めます。
伝統的な日本庭園の一つに観賞庭園があります。この庭園は、庭園を歩き回って鑑賞するのではなく、一点から座って眺めることを目的としています。調査チームの初期の研究では、日本庭園で日本人の参加者の目が左右に動くとき、伝統的な中庭[1]と比べて、副交感神経系(リラクゼーションを促進する神経系の一部)が交感神経系(闘争・逃走反応システム)を上回ることが示されました。この左右の視線の動きがリラクゼーションを促進する可能性があります。
目の動きがこの鎮静効果にどのように貢献するかをさらに探るため、研究者は京都の有名な無鄰菴庭園と京都大学庭園の観察効果を比較する新しい研究を行いました。
[1]壁や建物に囲まれた屋根のない庭

無鄰菴庭園はよく設計され、細心の注意を払って維持されていますが、大学庭園はそれとは違った設計がなされ、メンテナンスが少なくなっています。生理的反応は、心拍数モニター、目の動きの記録、皮膚コンダクタンス水準(SCL)を使用して測定され、副交感神経および交感神経活動を反映します。心理的反応は気分に関する質問票を通じて評価されました。
結果は、目の動きとストレスの軽減の相関性を明らかにしました。無鄰菴庭園では、参加者の目の動きがより速く、視覚の移動がより遠くまで広がり、視線は風景を水平方向に移動する頻度が高かったのです。どちらの庭園も気分を改善しましたが、心拍数が適度に低下したのは無鄰菴庭園だけでした。
2つの庭園の違い
2つの庭園を比較すると、研究結果を説明できるような設計上の要因が明らかになりました。無鄰菴庭園は、リラクゼーションに関連する目の動きを促す意図を持った設計要素と、細心の配慮を特徴としていたと、主任著者でピッツバーグ大学の神経生物学者および教授であるカール・ヘラップ(Karl Herrup)氏は声明で述べました。
どちらの庭園にも水、植栽、石、橋が含まれていました。しかし、大学庭園では最も魅力的な要素が中央に集中していたのに対し、無鄰菴庭園では焦点となる要素がより均等に水平に広がっていました。
さらに、無鄰菴庭園の植栽は、景観全体の視覚的なバランスを取るために慎重に剪定されていました。手前の木々は選んで間引かれており、枝葉越しに庭園の中央部や遠景を遮ることなく見渡せることができました。
対照的に、大学庭園はバランスを欠いていました。剪定されていない杉の木が密集して葉は背後の視界を遮っていました。雑草がはびこり、それが空間全体に散らされているかの様でした。
「2つの庭園の間では、構成要素と全体の規模は似ていますが、周囲の環境と維持管理のレベルが大きく異なります」と、長崎大学の研究者で教授でもある筆頭著者の五島聖子氏はエポックタイムズにメールで述べました。「重要なのは要素ではなく、空間構成と維持管理の質です」
無鄰菴庭園と大学庭園の違いから、以下の原則を導き出すことができます。
- 庭園全体にバランスよく要素を配置することは、中央の焦点に興味を集中させるよりも目の動きを促します。
- 視界を遮る庭園の要素は、目の動きを少なくします。
- 庭園の手入れが不十分だと、目の動きもストレス軽減も妨げられます。
日本の庭園と西洋の庭園
調査チームによる別の研究で、『Journal of Eye Movement Research』誌に掲載されたものは、日本の庭園がフランスの庭園や森林空間など他の自然環境よりも、心の静穏さをもたらすのに効果的かもしれないと示唆しました。その理由を調査するため、研究者は日本の庭園と中庭を観察する際の視線行動と生理的効果を比較しました。その結果、日本庭園における視線の動きは、より高い集中と関与に関連しており、それが日本人と白人の両方の鑑賞者においてリラックス効果と相関していました。
日本庭園がこのような視線の動きを引き起こす理由を説明するために、著者は日本と西洋の庭園の設計の違いを検討しました。日本庭園は自然主義的であり、自然を反映させ、小さな空間から広大な風景を想像させるように設計されています。このような庭園では、木の剪定や岩の戦略的な配置といった手法を用いて風景の錯覚を生み出し、鑑賞者が視線をゆっくりと動かし、各要素に注意を向け、瞑想的な状態になるよう促します。
研究では、日本庭園は単一の中心要素だけではなく、主要な中心要素の前または横にいくつかの副次的要素が配置されていました。視線はゆっくりと、そして間接的に中心へと導かれる複数の焦点を生み出しました。
対照的に、西洋の庭園はしばしば幾何学的で、複数の焦点ではなく、視線を主要な焦点に直接導きます。研究で使用された中庭は中心に副要素が少なく、視線が中心と周辺部の間を素早く行き来する結果となりました。このような速い視線の動きは、心を落ち着かせたり、瞑想的な反映を促すものではありませんでした。
日本庭園と認知症
研究チームによる別の研究で、『Journal of Alzheimer’s Disease』誌に掲載されたものは、進行性認知症の人々に対する日本庭園の観賞の利点を検討しました。その結果、日本庭園の観賞が生理的ストレスを軽減し、記憶と発話を改善する可能性があることを示唆しました。研究者らは、この体験が単なる視覚的なものではなく、より全体的(ホリスティック)な体験であると指摘し、日本庭園の鑑賞を既存の認知症治療を補完する支援的な手段として提案しました。
裏庭のオアシスを作る
「日本庭園の原則を使えば、誰でも裏庭に平和なオアシスを作ることができます」と、五島氏はエポックタイムズに語り、「リラクゼーションをもたらすために必要な要素には、静けさ、純粋さ、自然の感覚を喚起する抽象性が含まれます」と述べました。彼女は抽象性について、見る人が海の島や雲を突き抜ける山頂のようなより広い自然のシーンを想像できるような要素を配置することと定義しました。

五島氏は、植物と岩が日本庭園で中心的な役割を果たすため、植物間のバランスを維持することが設計上重要だと述べました。樹木を間引くことによる重層的な効果は、見る者を長く留まらせ、風景の奥行きと意味を熟考することを促し、「これが人々にリラクゼーションをもたらします」と彼女は述べました。
平和な庭園空間を作るための追加のアドバイスとして、エポックタイムズはガーデンファニチャーの創業者である園芸家アンドリュー・グリフィス(Andrew Griffith)氏に相談しました。
「庭園の設計が物理的な空間だけでなく、視聴者の精神にも影響を与えるのを直接見てきました」と、グリフィス氏はメールで述べました。「多くのアメリカ庭園の大胆でカラフルな活気とは異なり、日本庭園は微妙で静かな静寂、ミニマリズムを優先すること、自然素材、非対称なバランスを放っています」
グリフィス氏は、典型的なアメリカの庭園は季節の花や明確に定義された造園を特徴とするかもしれないが、日本庭園は、視覚的な壮観さではなく象徴性と静けさのために慎重に選ばれた要素—かき集められた小石、苔、水鉢、石灯籠—を通じて、穏やかな静寂を呼び起こすと付け加えました。
自宅で小さな日本庭園を作るために、グリフィス氏は装飾ではなく意図(趣旨)から始めることを推奨します。鍵となる原則には以下が含まれます:
- 色彩を絞る: 緑、クリームホワイト、自然な茶色の色調を使用します。鮮やかな花は避けます。
- 構造物を取り入れる: ししおどし、流れる線で描かれた小さな砂利の「池」、または非対称に配置された石を含めます。
- 意味を重ねる: 飛び石で曲がりくねった小道をつくり、「旅」を暗示させます。灯籠をひとつ置くだけで、夕暮れの静かな思索の場になります。
- 空白を意識する: 植えないことは、植えることと同じくらい重要です。空いた空間を使って、視覚的なバランスを生み出しましょう。
「日本庭園は完璧を追い求めるものではなく、視点を大切にするものです」とグリフィス氏は述べました。「それらは私たちに緊張をほぐし、観察し、そして感じることを求めています。それこそが、日本庭園の自ずと気分を高めてくれる理由です」
(翻訳編集 日比野真吾)
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