ミシェル・テナントは、根拠のない悪いうわさ話の対象にされることが、どれほどつらいものかを身をもって知っています。
数年前、彼女は親しい友人が陰で自分の悪口を言っていることを知りました。彼に直接問いただしたところ、思いがけない理由が明らかになりました。彼女が元妻を思い出させる存在だったというのです。それで彼の行動が正当化されるわけではありませんが、なぜそんなことをしたのかを理解する手がかりにはなりました。
人間発達学の修士号を持つテナント氏は、「人が有害なうわさ話を広める主な理由の一つは、自分自身の人生で解決できていない問題を抱えているからです。傷ついた人は、他人を傷つけてしまうのです」と話します。
しかし、うわさ話は必ずしも人を傷つけるものではありません。どのように使うかによって、その影響は大きく変わります。
エポックタイムズの取材に応じた人間行動の専門家5人のうちの1人であるテナント氏は、「うわさ話そのものが悪いわけではありません」と述べています。賢く活用すれば、人を守り、情報を共有し、人とのつながりを深める役割を果たします。一方で、軽率に使えば、人間関係を壊し、さらには身体の健康にまで悪影響を及ぼす可能性があります。
私たちはなぜうわさ話をするのか
うわさ話の研究者であるショーニー・デュペロン氏は、エポックタイムズに対し、「人間は人類学的に見て、うわさ話をするように生まれついています。うわさ話をせずにいることなど、できないのです」と語りました。
ウェイン州立大学でコミュニケーション・メディア研究の博士号を取得したデュペロン氏は、2016年にノーベル平和賞候補にも推薦された非営利リーダーシップ財団「プロジェクト・フォーギブ(Project Forgive)」を立ち上げました。
多くの研究者は、うわさ話を「その場にいない人について、広く知られていない情報を話すこと」と定義しています。この定義に当てはめると、日常会話のかなりの部分がうわさ話に該当しますが、その大半は悪意のないものです。
『米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)』に掲載された研究では、日常的なうわさ話のほとんどは悪意のあるものではなく、中立的な内容であることが分かりました。例えば、「同僚が昇進した」と話題にするだけなら中立的ですが、その昇進について「不正な手段で得たものだ」と根拠なく決めつけることは中立ではありません。
うわさ話には前向きなものもあります。例えば、同僚が病気で休んでいる際に、職場の仲間がその人を気遣い、「仕事を分担して助けよう」と話し合うことも、その一例です。
「うわさ話は取るに足らないものではありません。実際には、人間が世界を理解するための最も基本的な方法の一つなのです」とデュペロン氏は話します。
プリンストン大学で心理学の博士号を取得し、国際ポジティブ心理学協会の元会長も務めたロイ・バウマイスター氏は、エポックタイムズに対し、「人間は本質的に社会的な存在です。その意味で、うわさ話は人々の協力関係を維持する役割を果たしています」と述べました。
カリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学助教であり、心理学博士でもあるエシン・ジョリー氏も、この考えに同意しています。同氏は研究チームとともにうわさ話について研究を行い、その成果を2021年に発表しました。この研究によれば、うわさ話は、人との絆を深め、経験を分かち合い、自分の行動を見直すきっかけを与えてくれるなど、いくつもの役割を同時に果たす「社会的な道具」だといえます。
ジョリー氏はエポックタイムズに対し、「うわさ話が社会的なつながりを生み出すのは、他者と世界の見方を共有しているという感覚を強めるからです」と語っています。
このような利他的なうわさ話は人間関係を深める一方で、否定的なうわさ話は評判や人間関係を傷つけるだけでなく、私たちの身体の健康にも悪影響を及ぼします。
うわさ話が有害になるとき
悪意のあるうわさ話の標的になったことがある人なら、その痛みをよく知っているでしょう。研究では、社会的な拒絶による心の痛みは、身体的な痛みと同じ神経回路で処理されることが分かっています。
自分の評判が脅かされたり、仲間外れにされたと感じたりすると、身体は「闘争・逃走反応」に入り、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンが分泌されます。こうした社会的ストレスが繰り返されると、長期的には不安やうつ、頭痛、消化器系の不調などにつながる可能性があります。
人を傷つけるうわさ話は、広めた本人にも跳ね返ってきます。その場では気分が良くなっても、後になって罪悪感や「言わなければよかった」という後悔につながることが少なくありません。そのため、有害なうわさ話は「ジャンクフード」のようなものに例えられます。食べた瞬間は満足感がありますが、長い目で見ると健康を損なうのと同じです。
若い世代は、こうした有害なうわさ話の影響を特に受けやすいと考えられています。大人であれば、「悪意のあるうわさ話をする人というのは、きっと自己肯定感が低いのだろう」と、一歩引いて受け止めることができる場合があります。しかし、10代の若者にとって、そう冷静に割り切るのは簡単ではありません。計画を立てたり、行動をコントロールしたりといった高度な認知機能を担う前頭前野が、20代半ば頃まで十分に発達していないためです。
ジョリー氏は、「うわさ話は、全員が同じ情報を見たり知ったりできない状況で特に生まれやすくなります。多くの人にとって、それは10代の時期です。この年代では、社会的な情報が『通貨』のような役割を果たし、集団や上下関係を分ける材料になるのです」と説明しています。
テクノロジーが変えたうわさ話の世界
うわさ話は昔から大きな影響力を持っていました。しかし、デジタルメディアの登場によって、それはより速く、より広範囲へ広がり、しかも抑え込むことが難しくなりました。
心理学博士であり、メディア心理学研究センター所長を務めるパメラ・ラトリッジ氏は、テクノロジーやポップカルチャー、ソーシャルメディア上での人間行動について数多くの解説を行っています。同氏は『エポックタイムズ』に対し、「ソーシャルメディアの仕組み自体が、うわさ話の最も悪い側面を増幅するよう設計されています。アルゴリズムは、新しさや感情を強く揺さぶる内容を優先するのです」と語りました。
「そして、うわさ話はその場で手軽な快感を与えてくれます」とラトリッジ氏は言います。
うわさ話がオンラインでもオフラインでも人を引きつける理由の一つは、脳の働きにあります。うわさ話は脳の報酬系を刺激し、快感に関係する神経伝達物質であるドーパミンや、人との絆を深めるオキシトシンを分泌させます。しかし、デジタル空間でのうわさ話は、現実世界の会話が本来持っているはずの複雑さや文脈を、すっかり単純化してしまいがちです。
「ソーシャルメディア上のうわさ話は、勝者と敗者、英雄と悪役が明確な、分かりやすく単純な物語へと切り縮められています。そのため、虚偽の情報は、より新奇で異例性があり、脅威を感じさせ、感情を強く刺激するため、事実よりも速く拡散してしまうのです」とラトリッジ氏は説明しています。
さらに、リアリティー番組やインフルエンサー文化が、この問題に拍車をかけました。まるで自分がよく知る相手であるかのような感覚を抱かせながら、視聴者をうわさ話のやり取りに特別にアクセスできる「内輪の観察者」の立場に置いてしまうのです。対立やトラブルを中心にしたコンテンツに長く触れていると、現実の人間関係でも対立やドラマを当たり前のものと感じるようになり、うわさ話がごく普通のコミュニケーション手段として受け入れられやすくなってしまいます。
「芸能ニュースやゴシップ誌がうわさ話をビジネスとして成り立たせる土台を作り、そこへポッドキャストやインフルエンサー文化が加わったことで、うわさ話はさらに身近で親密なものになりました。今では、憶測や『ティー(tea)』(ゴシップや裏話を意味する俗語)そのものが、独立した一つのコンテンツの形式になっているのです」とラトリッジ氏は話しています。
うわさ話を賢く活用するには
悪口を言う、裏話を暴露する、最新情報を仕入れる――。うわさ話を表す言葉は数え切れないほどあります。それだけ普遍的な行動だからです。そして専門家によれば、うわさ話がこの世からなくなることはないでしょう。
バウマイスター氏は、判断のための簡単な基準を示しています。
「誰かについて話したことは、たいてい巡り巡って伝わり、最終的には本人の耳にも入るものです。ですから、何かを口にする前に、それが当人に伝わってしまっても構わないかどうかを考えてみてください」
さらにテナント氏は、より率直にこう助言しています。
「その人の目の前では言えないことなら、口にしてはいけません」
また、うわさ話をしたくなったときには、自分が言おうとしていることが重苦しいものなのか、それとも悪意に満ちたものなのか、自分自身に問いかけることを勧めています。
「それはあなたの良心に重くのしかかりますか。前向きな内容であれば、一般的に気持ちは軽く感じられます。良いうわさ話はエネルギーを奪うのではなく、与えてくれるものなのです」とテナント氏は語っています。
最後に、エポックタイムズが取材したすべての専門家が一致して強調したのは、うわさ話は人間に深く根付いた行動であり、人と人を結び付ける力にも、引き離す力にもなり得るということです。
デュペロン氏は、「問題なのは、うわさ話そのものではありません。問題なのは、それをどう使うかです」と締めくくりました。
(翻訳編集 井田千景)
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