『黄帝内経』の養生観:丙午年は水の力が強すぎる年――冷えが心と脾を傷めないよう注意

古代の医師が診療を行ったり、養生について語ったりする際には、必ずその年の干支をもとに、気候の変化を読み取り、それを人の体に当てはめて病気の傾向を判断していました。

そのため年が切り替わるたびに、伝統的な暦に記された干支を使って、新しい一年の「気の流れ」を読み直します。私たち一般の人も、これを知っておけば、その年に合った養生のポイントを理解し、食事を柔軟に整え、体のバランスをめに調えることができます。つまり、病気の予防ができるのです。

そこで今回は、2026年の干支である「丙午」をもとに、この一年の養生と病気予防について考えていきます。
 

年の流れを知らなければ、医療は成り立たない――『黄帝内経』の厳しい教え

『黄帝内経・素問・五運行大論』には、次のような、とても厳しい一文があります。

「不知年之所加,气之盛衰,虚实之所起,不可以为工也。」
「その年に加わる気の流れ、盛んなものと衰えるもの、虚と実がどこから生じるのかを知らない者は、医を行ってはならない」

つまり、その年の自然の気の動きや、五行のうち何が強く、何が弱いのか、それが人の体にどう影響するのかを理解せずに治療を行うことは許されない、という意味です。

ここでいう「工」とは、医術を身につけた正式な医師のことです。その医師であっても、年ごとの気の流れを知らなければ、医療に携わる資格がないとまで言われています。それほどまでに先人は『黄帝内経』を五行の学びや、自然と人は一体であるという考え方を重視していました。後世のように、陰陽五行を単なる哲学概念として軽く扱っていたわけではありません。

だから古代の医師たちは、毎年必ず干支をもとに、その年の天地の気の流れを把握し、病気が起こりやすい傾向や変化の方向、人の臓腑への影響を予測していました。その上で、治療や投薬、あるいは予防や養生を行っていたのです。

私たちが中医学の知恵を養生に生かしたいと思うなら、『黄帝内経』が示す、干支から年の流れを読み取る「運気学(五運六気)」の考え方を理解することが欠かせません。その年の五行の動きを知ってこそ、体の状態を見通し、無理のない調整ができるからです。
 

丙午年は「水の力が強すぎる年」――始まりは大寒から

歴代の医師たちは、『黄帝内経』の運気学を実際に用いながら、年の流れは「立春」ではなく「大寒」から読む、という考え方を積み重ねてきました。そのため、多くの場合、新しい一年の気の流れは大寒から始まるとされています。

丙午年は、天干が「丙」、地支が「午」です。天干は、その年を通して主役になる五行の気を示します。『黄帝内経・天元紀大論』には、「丙と辛の年は、水の運が全体を統べる」とあります。

つまり、天干が丙の年は、本来の「火」の性質ではなく、一年を通して「水の気」が主導する年になります。しかも丙は陽の干で、「勢いが強すぎる」性質を持つため、水の力が特に強く出やすい年です。水は寒さに属するため、今年の気候や体調には「冷え」が大きく関わってきます。

次に地支の「午」は、年の中の六つの時期(六気)を読み解くために使われます。まず最初の二か月ほど、大寒(1月20日)から春分の前日(3月19日)までは、「初の気」と呼ばれる期間です。この時期は、大寒・立春・雨水・啓蟄の四つの節気を含み、年運と同じく冷たい水の気が中心になります。つまり、冷えやすい時期であり、体を冷やさず、特に心を守ることが重要になります。

では、寒さが強くなりすぎると、人の体にはどんな影響が出るのでしょうか。これについても、『黄帝内経』にははっきりとした記述があります。
 

水の力が強すぎる年に起こりやすい不調――心と脾が冷えに傷つく

『気交変大論』には、次のように書かれています。

水の運が過剰な年には、寒さが広く行き渡り、その寒さが心の火を抑え込みます。その結果、人々は、体が熱っぽく感じる一方で、心が落ち着かず、イライラし、動悸が起こりやすくなります。手足が冷え、体の上・真ん中・下のすべてに冷えのサインが出ることもあります。重くなると、意識がぼんやりしたり、意味の通らないことを言ったり、胸の痛みを感じることもあります。

さらに寒さが早く訪れる年には、自然界では雨や霧が増え、湿気が強くなります。これが続くと、お腹が張る、脚がむくむ、息切れや咳が出る、汗が止まらないのに風がつらい、といった状態が現れやすくなります。これは、寒さと湿気が脾(消化吸収を司る働き)を傷めているサインです。

寒さと湿気がさらに強まると、季節外れの雨や雪、霜が降るような異常気象が起こり、人の体では、腹部の張り、腸の音、下痢、消化不良、喉の渇き、めまい、頭がぼんやりする、といった症状が出やすくなります。

『黄帝内経』は、このように、寒い水の力が心の火を強く抑え込むことで、心・脾・腎といった働きが弱り、さまざまな不調が連鎖して起こることを示しています。

特に心や胃腸、腎が弱い人は、食事で心の火を守り、体にたまった寒さや湿気を外へ出す工夫が必要です。生もの、冷たいもの、脂っこいものは控え、体を冷やしすぎないようにすることが大切です。心の火が冷えに押さえ込まれず、湿気が行き場を失わないようにしてあげましょう。

そのため、食卓には、温かく、うるおいがあり、香りで湿をさばく家庭料理を意識して並べたいところです。早めに気をつけておくことが、体を守ることにつながります。
 

参考になる養生メニュー

生姜と紅棗の鶏スープ

温かいけれど強すぎず、うるおいがあって重くありません。生姜は体を温めて寒さを和らげ、なつめは心と脾を養います。鶏スープが心の火と体の中心を支え、冷えと湿気で体が重く、気持ちが落ち着かないときに向いています。

山芋とかぼちゃのお粥

うるおいの中にほどよい温かさがあり、体を弱らせずに湿をさばきます。山芋は胃腸を助け、かぼちゃは湿気を調えます。お腹の張りや腸の音、便がゆるいときに特に向いています。

陳皮と蓮の実のスペアリブスープ

香りで脾を目覚めさせ、うるおいで心を落ち着かせます。陳皮は気を巡らせ湿を取り、蓮の実は胃腸と心を養います。湿気が多く、イライラしやすい人、眠りが浅い人に合います。

ねぎ・生姜・きのこの青菜炒め

香りで気を巡らせ、温かさで湿を追い出します。ねぎと生姜が冷えを散らし、きのこが消化を助けることで、青菜が冷めないので、雨続きの日に特におすすめです。

ねぎ生姜入り豆腐煮

軽く補い、胃腸を温かく守ります。豆腐は火を通せば冷めにくく、ねぎと生姜がその性質を支えます。体が冷えて食欲がなく、タンパク質を肉でとるには重すぎる人に向いています。

しそとごぼうのきんぴら

香りで気を巡らせ、湿を散らし、気分の滞りも和らげます。しそは冷えと気分の落ち込みをほどき、ごぼうは体の中心の流れを助けます。胸がつかえる感じや、体が重だるいときに向いています。

(翻訳編集 華山律)

白玉煕
文化面担当の編集者。中国の古典的な医療や漢方に深い見識があり、『黄帝内経』や『傷寒論』、『神農本草経』などの古文書を研究している。人体は小さな宇宙であるという中国古来の理論に基づき、漢方の奥深さをわかりやすく伝えている。