風邪で熱が出ると、多くの人が思わず「タイレノールを飲もう」と考えるのではないでしょうか。タイレノールは非常に一般的な市販の解熱鎮痛薬で、主成分はアセトアミノフェン(別名パラセタモール)です。発熱を素早く抑え、頭痛や筋肉痛の緩和にも役立つことから、現代では風邪や発熱時の「標準的な対処法」として広く使われています。
しかし昨年9月22日、アメリカのトランプ大統領がホワイトハウスで「妊娠中にタイレノールを服用すると、赤ちゃんの自閉症リスクが大幅に高まる」と発表し、アメリカ保健省(HHS)も妊婦に対してタイレノールや同様にアセトアミノフェンを含む薬の使用に慎重になるよう呼びかけました。このことから、タイレノールの安全性がメディアで大きく取り上げられるようになりました。
では、解熱薬に頼らずに安全に熱を下げる方法はあるのでしょうか。中医学ではどのような発熱対処法があるのでしょうか。
なぜ発熱が起こるのか
発熱とは、体温が正常範囲を超える状態を指します。体温は個人差があるうえ、同じ人でも一日の中で変動します。一般的に朝は低く、午後から夜にかけて高くなる傾向があります。平均的な正常体温はおよそ36.5~37°Cで、口腔で測った体温が37.8°C以上になると発熱と判断されます。
発熱自体は病気そのものではなく、身体が病原体と戦うために免疫系が起こす反応です。ウイルスや細菌、その他の刺激が体内に入ると、免疫細胞は「発熱物質」と呼ばれる物質を放出します。これが脳の視床下部に信号を送り、体温の設定値を引き上げるため、結果として体温が上昇します。
体温が上がると病原体の増殖速度が遅くなり、白血球はより活発になります。感染源の識別や排除が速まり、身体の回復を助けるのです。発熱時は疲れや眠気を感じやすくなりますが、これも身体を休ませて回復を促すための自然な反応といえます。つまり、発熱は身体が自らを守るための重要な働きなのです。

発熱の主な原因
発熱を引き起こす理由はさまざまですが、大きく次のようなタイプに分類できます。
- ウイルス感染:インフルエンザ、新型コロナ(COVID-19)、麻疹、水痘、RSウイルス感染など
- 細菌感染:扁桃炎、咽頭炎、肺炎、食中毒など
- 自己免疫疾患:関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)など
- 薬剤反応:一部の抗生物質や降圧薬などが発熱を引き起こす場合があります
- 腫瘍やがん:特に白血病・リンパ腫など血液系の腫瘍は、長期の微熱や原因不明の発熱をもたらすことがあります
- 環境・代謝の問題:熱中症、内分泌異常など
西洋医学ではどうやって熱を下げるのか
西洋医学での解熱方法は主に二つに分けられます。
一つは物理的な方法による解熱で、水分を多めにとる、室内をよく換気する、ぬるま湯で身体を拭くなどの対処です。
もう一つは薬による解熱で、アセトアミノフェン系タイレノール、パナドールなど、あるいは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるイブプロフェン、ナプロキセンといった薬剤が使われます。
物理的な方法であれ薬による方法であれ、目的はあくまで「体温を下げて症状を和らげること」であり、病気の根本的な原因を治すわけではありません。
発熱を中医学はどう捉えるのか
西洋医学とは異なり、中医学では発熱そのものを抑え込むのではなく、身体の正気(生命力)を高め、全体のバランスを整えることを重視します。
カナダの公立カレッジで中医学を教える劉新生教授によると、中医学では発熱を大きく二つに分けています。一つは外からの病邪、つまり細菌やウイルスによって起こる「外感発熱」で、最も一般的です。もう一つは、体質や臓腑のバランスの乱れによって起こる「内傷発熱」です。
劉医師は、中医学における発熱の理解や治療の基本は、後漢末期の名医・張仲景による『傷寒論』に基づいていると説明します。
張仲景は、身体が外邪(ウイルスなど)に侵されたときの病気の進行を六つの段階に分けました。太陽、陽明、少陽、太陰、少陰、厥陰の六段階です。初期の太陽期では、外邪が入り始め、発熱などの反応が出ます。さらに進むと陽明期となり、高熱が続く状態が現れます。高熱が続いて正気が弱り、気血が衰えると少陽期へ移行し、身体が虚弱な反応を示し始めます。
「発熱は主に太陽期・少陽期・陽明期で見られます」と劉医師は話します。「正気がしっかりしていると身体は発熱という反応を起こせますが、逆に正気が弱りすぎていると熱を出す力すらなくなります。これを中医学では『正邪交争』と呼びます」
中医学の解熱法
劉医師によれば、中医学にはさまざまな解熱方法があり、鍼灸、カッピング、中薬などが用いられます。また、体質や発熱のタイプに合わせて方法を選ぶため、臨床でも良い効果が得られるとされています。
鍼灸
よく使われるツボは、風池、曲池、合谷などです。
これらを組み合わせた治療は、風邪による発熱、悪寒、鼻づまり、頭痛に特に有効だと劉医師は述べています。
カッピング
一般的には大椎のツボに吸い玉を行い、さらに背中の背兪(大杼・風門・肺兪など)のツボを組み合わせると、より効果が高まります。
特に高熱が強い場合には、大椎への鍼と吸い玉を併用したり、大椎からの刺絡(少量の出血を促す方法)を行う場合もあります。39℃以上、あるいは40℃を超えるような高熱にも一定の効果が期待できますが、必ず専門の医師の指導のもとで行う必要があります。
また、高熱の中には重い感染症や脳炎のような脳内の問題が原因となっている場合もあり、その際は現代医学との併用が不可欠で、慎重な対応が求められます。
中薬の方剤
劉医師によると、鍼灸や吸い玉のほかにも、中医学には多くの方剤があり、解熱作用に優れたものも少なくありません。これらは歴史的にも臨床的にも効果が確認されているといいます。
1. 子どもの発熱:麻杏石甘湯
幼児の発熱、とくに肺炎による高熱で、咳や呼吸困難を伴う場合、抗生物質が十分に効かないことがあります。こうしたケースで、中医学の方剤である「麻杏石甘湯」は非常に良い効果を示すと劉医師は述べています。
この方剤は、麻黄・石膏・杏仁・甘草のわずか四つの生薬からなります。麻黄は発汗を促して外邪を追い出し、石膏は熱を冷まし炎症を鎮めます。杏仁は咳を抑えて呼吸を楽にし、甘草は肺を潤して咳を鎮めます。シンプルな処方ながら効果は顕著です。
2. 発熱しても汗が出ない:麻黄湯
発熱しているのに汗が出ず、全身の痛みが強く、脈が浮いて締まるような状態のときは「麻黄湯」が適しています。麻黄湯は麻黄、桂枝、杏仁、甘草の四味で構成されています。
「多くの場合、麻黄湯を一服すれば熱がすっと下がり、身体がスッと楽になります。効果はとても速いです」と劉医師は話します。
3. 発熱して汗が出る:桂枝湯
発熱して汗が出やすく、風に当たると寒気を感じ、体質が弱いタイプの人には「桂枝湯」が適しています。桂枝湯は桂枝、芍薬、生姜、大棗、甘草の五味から成ります。
このタイプの発熱は、一般に激しい高熱ではありません。高齢者や子ども、体力が落ちた人の発熱にはとても効果があるとされています。

4. 高熱が続く:白虎湯・承気湯
外部からの病原体による発熱がさらに進行し、体内の深部にまで浸透することがあります。この場合、患者は風邪や寒さを嫌うといった症状は見られませんが、代わりに持続的な高熱、喉の渇き、冷たい飲み物を好み、舌が赤くなる、脈が速く強くなるといった症状が見られます。このような状態では、肺の熱を冷ます「白虎湯」が使われます。白虎湯は石膏、知母、甘草、杏仁から作られます。
体力が弱い人が同じ症状を示す場合は、人参を加えて「白虎加人参湯」とします。
もし高熱に加えて便秘がある場合は「承気湯」、または承気湯と白虎湯の併用で、熱を冷ましつつ排便を促します。
5. 出血を伴う高熱:犀角地黄湯・清営湯
重い感染症などで、高熱に加え、皮膚に出血点が現れたり、皮下出血、鼻血、吐血など出血症状を伴う場合は、「犀角地黄湯」や「清営湯」が用いられます。これらは血の熱を冷ますことで解熱を図る処方です。
6. 虚証による発熱:補中益気
もう一つ、虚証が原因で発熱するケースがあります。体温は高くても、外邪の侵入ではなく「気虚」が原因で起こるため、この場合は冷やす薬や熱を下げる薬は適しません。
中医学には「甘温除大熱」という考え方があり、甘く温性の薬材を使って気を補い、結果として高熱を鎮めるというものです。その代表的な方剤が「補中益気湯」です。
劉医師は、「甘温除大熱」は中医学特有の治療理論で、臨床効果も非常に高いものの、現代医学はまだこうした考え方に追いついていないと指摘します。
さらに劉医師は、発熱のメカニズムは非常に複雑で、現代医学が有効な場面もある一方、対処が難しいケースも少なくないと述べ、「現代医学ではまだ人体のすべてを解明しきれていません。中医学は、人間の身体を見るうえで現代科学とは異なるもう一つの視点を提供しているのです」と語っています。
(翻訳編集 華山律)
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