挙国体制で難民を受け入れるドイツ

難民受け入れの道義と良心

ドイツ政府には一つのある大切な理念がある。それは「ドイツ経済が発展した暁には、ドイツは世界平和のための貢献をより多くすべきである。このような国家が多くなれば経済はより早く発展し、世界ももっと良くなる」というものである。

現在、シリア内戦のために多くの難民が生まれ、その海外流出数は世界一となっている。今年8月末、1・7万人ものシリア難民がさまざまなルートでEUの東の入り口、ハンガリーに到着した。EUのダブリン条約では、難民が初めに到着した国家はこれらの難民を守る義務があると定められている。しかしハンガリーは数が多過ぎるという理由で難民の受け入れに難色を示し、他のEU加盟国も様々な理由から受け入れに消極的だった。

このような状況下で8月31日、これまで難民政策にはほとんど触れてこなかったドイツのメルケル首相が、数百人の記者の前で次のように宣言した。「我々は受け入れます! ドイツはこの1・7万人のシリア難民をすべて受け入れましょう!」と。彼女は同時に、ドイツ国民に向けて次のように呼びかけている。「統一を成し得たドイツは、更なる国際義務を担うべきです! 難民たちはドイツに憧れており、これはドイツ民族の誇りです」

メルケル首相のこの発言は、たちまちドイツ社会に大きな反響を巻き起こした。連立与党の社会民主党(SPD)はすぐに、首相の発言に賛同すると表明。連邦政府は直ちに10億ユーロの拠出を決定し、最高で50億ユーロの拠出を計画した上で、憲法の修正を提案した。戦争難民の緊急救援に対する更なる権力と融通性を政府に与え、時間がかかる行政手続きを簡素化するよう求めたのである。

ドイツメディアは全国総動員の風潮を高める一役を担い、全テレビ局が国民に寄付やボランティア活動を呼びかけた。9月6日、6千人のシリア難民を乗せた列車がハンガリーからオーストリアを経由し、ミュンヘン駅に到着。その後も続々と、1・7万人のシリア難民全員がドイツに到達した。ミュンヘン駅には「歓迎」と書かれた大きな横断幕が掲げられ、市長も自ら駅まで足を運び、難民を出迎えた。多くの市民たちは自分の家族を迎える時のように様々なプレゼントを持って駅につめかけ、駅はお祭りのような賑やかさだったという。国を挙げての歓迎ムードに対し、シリア難民たちは「ドイツ」と書かれたプラカードや大きなメルケル首相の写真をその手に掲げ、ドイツ国民に感謝の意を示した。危難に陥った上に多くの国が受け入れを拒否して途方に暮れていたまさにその時、ドイツだけがあたたかい助けの手を差しのべてくれたのだ。

今回の難民救助には2千300万人のドイツ市民が直接、或いは間接的に参加したという。この人数はドイツ全人口の4分の1に相当する。

反対の声

メルケル首相のやり方に対し、反対の声が一切挙がらなかった訳ではない。ドイツは政界から一般社会に至るまで多元的な国家であり、一部の野党代表は今回の難民対策がもたらす経済的、社会的負担に危惧を表明した。更に30数人の極右組織者がミュンヘン駅で難民の受け入れに抗議し、これに反対する数百人の市民と衝突した。警察が出動して強制的に双方を引き離す騒動となり、5人の負傷者を出した。ドイツ以外ではハンガリーの神父が、多くのイスラム教の難民がキリスト教の地域を占領したという理由で、今回の難民受け入れに対して反対の意を表した。

国外の反応

ドイツの影響を受け、難民にはあまり友好的ではなかったイギリスが1万から1・5万人の受け入れを表明。フランス大統領も今後2年間に2・4万人を受け入れると宣言した。

イギリスのメディアはドイツの難民対策を以下のように評価した。「容易に認めたくはないが、ドイツは人道上、確かに我々を超えている」、「難民をお客様として迎え入れたドイツに対し、イギリスは難民を犯罪者と見做している」、「メルケル首相は難民の受け入れに反対する有権者の抗議行為を非難したが、イギリスの首相は有権者のこのような抗議行為に屈してしまっている」。スペインのメディアもメルケル首相を賞賛し、今回の行動からは難民救援に対するドイツ国民の熱意が垣間見えたと評価した。

ギリシア政府に対して厳しい節約を求めたメルケル首相はギリシア国民に罵られたが、ギリシアのメディアも今回の難民救援に関しては「メルケル首相は少なくとも道徳の上では高尚である」との評価を下した。今回の難民救援の話を聞いたアメリカのオバマ大統領は、大規模な戦争難民を受け入れたドイツに感謝の意を表した。

(翻訳編集・金谷)