<赤龍解体記>(13) 胡錦涛と温家宝の分裂が表面化か

胡錦涛が中共トップに登った当初、「胡温新政」として大いに期待されていた。これまで、江沢民の上海組からひどくけん制されるだろうと、彼の不作為を寛大に見つつ奮起するのをずっと待っていた。

 しかし、権力を十分握っていると思われる今でも、期待される方向へ向かう姿勢を示さないばかりか、ますます後退している。

 これも一つの原因なのか、相棒である温家宝も近年、明にも暗にも胡錦涛の不作為に不満を示し、次第に背を向けるようになったのである。

 五四運動92周年を迎え、胡錦涛と温家宝はそれぞれ異なる見解を発表し、従来の「胡温新政」がより後退し、その分裂はより一層明確化している。

 ■胡錦涛は五四運動の民主思想を避ける

 4月24日、中国の名門大学・清華大学で創立100周年記念行事が行われ、胡錦涛が演説を行った。彼の演説は6000字に及ぶものであったが、マスコミは、彼の学生への期待をただ「個人が集団や社会との関係を正確に処理したうえで、個性を保つように」と短く掲載した。すなわち、学生として己の個性を抑制し、社会や中共の利益に合わせなければならないと伝えているのである。

 3年前の、北京大学創立110周年記念座談会でも、胡錦涛は民主や科学を避けて、ひたすら愛国精神を提唱した。むろん、中共の論理にすれば、愛国とは中共を熱愛するということである。

 胡錦涛の腹心で政治局委員の王兆国も、五四運動92周年記念座談会で五四運動の精神である民主と科学を避けて、胡錦涛の民主不言に対する解説だとされた。「学生としては、中共の科学理論を実践し、政治方針を擁護し、中共の決定を履行する執行者となるべきだ」という。

 ■温家宝は自立精神を提唱する

 一方、五四運動92周年を迎え、温家宝は自分こそ中南海の主であるかのように、集会に参加したほか、20名の学生を中共の政治中枢である中南海に招待して座談会を開いた。

 座談会で、温家宝は、理想を持つ、よく勉学する、道徳を重んじる、自立精神を持つ、勇ましく奮闘する、という五つの要求を学生たちに提言した。

 自立の問題について、温家宝は、「若者はよい想像力をもって独自に思考しなければならない」「よく考えて物事の真相を察しなければならず、それによって正しい判断を下すべきだ」と強調している。

 この「独自思考論」は従来の中共の論理と打って変わったものであり、胡錦涛の個性を殺し党利に従うべきだとの主張とはっきりと異なっていることから、中国のネット上で大きな波紋を引き起こしている。

 たとえば、サイト「網易」では、温家宝の主張についての書き込みが3000以上に上り、「独自に思考することは、社会の公平、正義、法制、民主のもっとも肝心な思想基礎である」と大いに評価されている。

 ■「五つのしない」に対する不満

 今年の全人代の報告で、委員長の呉邦国が突然、「五つのしない」(三権分離をしない、司法の独立をさせない、多党制を実施しない、指導思想の多元化をしない、私有化をしない)を宣言し、多大な反響を呼んでいる。

 とりわけ、「私有化をしない」という切り札は、私有財産を公有化する前兆だろうと読まれ、億万長者の中でひそかに資産を海外へ移す動きがみられるし、富裕層なども将来に対してかなりの不安を感じるようになったなどの変化が表れている。

 しかし、呉邦国の「五つのしない」論は、彼の発案ではなく、胡錦涛から押しつけられたものだったという。全人代での報告を事前に審査した際に、胡錦涛は元の「三つのしない」の上にさらに「指導思想の多元化をしない」と「私有化をしない」を付け加えたと言われる。

 この「五つのしない」に対する党内外からの反発を見て、83歳の前総書記・江沢民も動き出し、呉邦国を呼んで事情聴取をし、不満の意を示したという。

 中共の分裂は、表面化するばかりでなく、次第に多元化している。

 

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