<赤龍解体記>(14) 習近平、18大で左折決意か

5月14日、中国新華社ネットおよび国営の大手メディアは一斉に、習近平が中共の幹部に、マルクス、レーニン、毛沢東の著作を学習するよう強調したと報道している。

 中共中央党校の春季第2回省級幹部教育の開学式が13日に行われた。同校の校長を務め、次期最高指導者の最有力候補とされる習近平は、その開学式で挨拶し、党の幹部は今後、時間を割いて、新版『マルクス・エンゲルス文集』(10巻)と『レーニン特別文集』(5巻)などマルクス主義の経典著作を学習すると共に、毛沢東の重要著作を真剣に学習する必要があると強調した。

 ■習近平の発言は左折するという宣言なのか

 中共は文化大革命後も途絶えることなく、全党および全国民に、マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、_deng_小平理論、そして江沢民の「三つの代表」や胡錦涛の「科学的発展観」理論などを学習するよう要請しており、それらの学習はずっと中共の政治生命の重要な要素であるとされてきた。

 しかし、江沢民や胡錦涛など最高指導者も含め、真に共産主義を信じ、マルクスの著作を理論の指導として真面目に学習している中共の幹部はほとんどおらず、それらをある種の政治的姿勢に不可欠な儀式とみなしているに過ぎない。

 この慣例から見れば、習近平の呼びかけも、一種の政治的パフォーマンスに過ぎず、何の新しい意味も持たないはずである。しかし、彼が毛沢東の旧居を仰ぎ見たり、重慶を視察し薄煕来の「唱紅打黒」を絶賛することを考え合わせれば、今回の呼びかけは、形式的ながらも彼の政治姿勢を示す宣言であるとみなすことができる。

 政治改革を実行すべきだと主張する改革派と、文革大革命のような正統的な社会主義に立ち返ろうとする毛沢東派が激闘している中で、彼の発言は18大後、右折せずに左折し、毛派の旗手・薄煕来と手を携えていくと示唆したとしか読めないのである。

 ■左折も右折もバランスを維持するための一手段

 習近平が左であったり右であったりする不安定な政治姿勢について、中共の諮問機関である国務院政策研究室の研究員は次のように分析している。

 胡錦涛はトップに就任した当初、北朝鮮に倣い、毛沢東思想に回帰すべきなどと主張する一方、政治改革についても多く言及していた。つまり胡錦涛はつねに相互に矛盾する政見を発信していたのである。今の習近平も同様、毛沢東思想の復活を主張する一方、透明性のある政治を実施すべきとも主張している。

 しかし、彼らの言論の真偽性を云々するよりもその目的を見定めることが重要だ。このようなな矛盾した言論で、官僚や民間の意向を測ると共に、左派と右派を共に落ち着かせ、どの勢力にも希望を持たせるのが狙いである。

 消息によると、2010年12月28日、中共政治局の全体会議で「毛沢東思想に関する若干の意見」という決議案(179号)が通過した。今後、党会議のコミュニケや党の工作任務の決議、党の方針政策制定などにおいて、「毛沢東思想」は書き入れないことにしたという。

 この決議案は、呉邦国と習近平が提案したもので、薄煕来や胡錦涛を含め政治局による全会一致の賛成で通過し、しかも決議案通過後、皆が自ずと立ち上がって長らく拍手したということである。

 この毛沢東思想放棄という政治局決議が風説だったかどうかは、現時点では判明しかねる。もし、これが真実であるなら、習近平は、もう一つの顔を見せたことになるのだろう。

 一つ言えるのは、彼にとっては、左折でも右折でも、ただ時間を稼ぐ一時的な策謀に過ぎず、決して自分の一貫した政治的抱負や価値観そのものではないということだ。しかも、今の中国はスーパーマンの時代が過ぎ去り、すべてが流動的な状態にある。

 

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