ダム建設中断 諦めない中国 手放したくないミャンマー国民

【大紀元日本10月12日】国民の声に応えてセイン大統領が行ったダムの建設中断発表は、ミャンマーの国内外を驚かせた。軍事政権から脱した新民主国家としての前進か、欧米の経済制裁の緩和を図ったものか、さまざまな憶測が広がる。一方、中国は巨大ダム建設事業を諦めていない。

ミャンマーのティン・セイン大統領は9月末、中国資本援助による北部カチン州のイラワジ川上流のダム建設プロジェクトを、「国民の意に反する」として中断を発表した。これについてプロジェクトを担当する国営・中国電力投資集団公司(CPI)は、「理解できない」と反発する。

中断の発表を受けて、中国外交部報道次官は、この36億ドルの巨大プロジェクトについてセイン政権に「友好的な」協議を要求し、「(中止された)ミッソンダム水力発電計画は、厳格な事前調査と検証を経て執り行われた、中国・ミャンマー合同の投資プロジェクトである」と主張した。

また、ミャンマーのワナ・マウン・ルウィン外相が大統領特使として北京を訪問、習近平国家副主席とダム建設中断について会談が行われたという。このとき、習氏が計画中断を見直すよう迫ったとも、産経新聞は伝えている。

ダム建設中断 ミャンマー国内の声

地元紙「イラワジ」が行った国民へのインタビューでは、大統領の決定について支持を示すとともに、これまでの中国の態度に不快感を示すものが多い。

国内誌「時代」編集委員のマウン・ウン・チャー氏は、「経済の動きを最大の関心事とする中国企業とビジネスマンは、計画中断に腹を立てているかもしれない。まるで美味しい料理を口に運ぶ前に落としてしまったような感覚だろう」と話す。ベテランジャーナリストのルドゥ・セイン・ウィン氏は「(中国は)世界最大規模の国の一つとして、自らの中華の伝統を維持するのが責務であり、貪欲さにかられて破壊行為をするべきではない。ミャンマー国民は全力を投入してイラワジを守ろうとするだろう」と述べた。

このダム建設プロジェクトによって、ミャンマーの水源と自然生態系が傷つけられ、現地住民は強制移住させられる。建設に関わるのはほとんどが中国人で、しかも生産された電力の9割は中国へ送電される。この不平等な条件により、ミャンマー国民と、アウン・サン・スーチー氏をはじめとする民主活動家や有識者が計画中断を訴えていた。

中国政府がこれまで、ミャンマー側の自然環境や住民たちの生活に配慮した対応を取って来なかったため、ミャンマー国民の反発は強い。このダム建設計画により、少なくとも1万人が住む40の村を含む6万4800エーカーにおよぶ土地が水没する。

ミャンマー国内紙「イラワジ」によると、中国は、ティン・セイン大統領の任期が終わる2015年前半以降もダム建設計画を継続させる取り決めを秘密裏にまとめていた可能性があると、ミャンマーの現政府筋は指摘している。

ミャンマー国民と正反対 CPIの報告書

先月末、CPIはミャンマーの自然環境に及ぼす影響についての調査結果報告書を発表した。そこには「大多数のミャンマー国民がダム計画を支持しており、継続を主張している」と記されている。またその報告書には、「80.4パーセントの人々が、ダムはこれまでより多くの仕事をもたらし、高い収入が得られたと回答。62.8パーセントが地域経済を活性化させ、国の発展の支えとなったと回答した」とある。

CPIが建設を計画しているイラワジ川の複数ダムの1つが、支流の合流点より上流に作られる巨大な「ミッソンダム」である。これにより、川の流れが大きく変形する。これについて同報告書には、「合流点が変化することによって、人間的景観と自然の景観が結合され、改善された環境は地域の観光産業の成長を後押しする」とある。

CPIの調査報告書の結果は、ミャンマー国民や国際的な自然環境研究家たちの考えと正反対のものだった。研究者たちは、ダムは世界的にも有数の多種生態系が広がるカチン州周辺の自然環境を破壊し、その下流に住む住民たちの生活を破壊すると訴えてきた。さらに一部の専門家からは、カチン州に集中するダム計画は、自治意識の強いカチン族とミャンマー軍との衝突を激化させたとの意見もある。

「貴重な生態系保護を軽視している報告書そのものが不適格だ」と、タイを拠点とする独立環境保護団体・国際河川ネットワーク代表のグレイス・マング氏は述べる。

「CPIの調査にある仮説は、動物または植物が貯水池地域から移動できるならば影響ないということだが、既存の生態系を単純に別の地域に移すことなどできるはずがない」と、マング氏は報告書が示す内容を疑っている。同氏は、最近の写真から見て、ダム建設は5段階のうち第2段階まで終了していると推測する。

セイン大統領の決定は、明らかに中国の怒りを招いた。それは、わずか数カ月前に大統領が北京で「戦略的な関係」を約束したあとのことだったからだ。

セイン大統領の訪中期間中、温家宝首相はミャンマー政府に対し、石油、ガスのパイプライン、水力発電計画及びその送電という各プロジェクトが円滑に行われるために監督するよう要求した。

ベンガル湾から中国雲南省へ続く海底ガスのパイプラインが、ミャンマーの中央を縦断して走る。専門家は、中国がミャンマー政府と緊密な関係を維持したいのは、貧困でありながら資源が豊富な東南アジアの国々に投資するためだと考えている。

ミャンマー国内紙「イラワジ」はこう指摘する。「現在、ミャンマー中で論争の的となっているダム建設計画を推し進めるなら、国民の間にすでに火が着いている反中感情をさらに煽ることになる」

「中国政府の態度は、我が国の文化と伝統に対する脅威」と、国内の環境保護活動家ウー・オーン氏は述べる。「我々はイラワジを渡さない。たとえ中国全土と交換になったとしても」

(翻訳編集・佐渡 道世)

関連記事
[21日 ロイター] - 東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国カンボジアのプラク・ソコン副首相兼外相は21日、ASEAN特使として初めてミャンマーを訪問した。 23日まで滞在する予定で、初日は軍事政権トップのミンアウンフライン総司令官と会談した。 ASEANは、昨年4月の首脳会合で暴力の即時停止など5項目で合意したが、ミャンマーがこれを履行していないため、首脳会議からミンアウンフライン氏を締め出
ビルマ軍事クーデターにより権力を掌握した国軍が国を混乱に陥れた日から正確に1年を経た2月1日、カナダ、英国、米国がビルマに対して追加制裁を科したと発表した。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2日、ミャンマーからバングラデシュに逃れたロヒンギャ難民への支援として、日本政府が100万米ドル(約1.14億円)の緊急無償資金協力の実施を決定したと発表した。安全な水や医療などの
[10日 ロイター] - ミャンマー国軍が首都ネピドーに設置した特別法廷は10日、国家顧問兼外相だったアウン・サン・スー・チー氏に対して、無許可の無線機を保有していた罪などで禁固4年の判決を言い渡した。事情に詳しい関係者が明らかにした。 先月下された判決と合わせたスー・チー氏の刑期は6年となる。人権団体は判決内容について全くの事実無根で、政治的な見せしめだと強く批判している。 スー・チー氏は10件
今年12月10日の「人権デー」では、国際社会が「平等」に焦点を当てて社会を考察する。この日はまた、世界各国の軍隊や治安機関が人権保護における自身の役割を見直す良い機会ともなる。