焦点:太平洋に中国軍事基地の可能性、米国や同盟国に警鐘

Greg Torode and Philip Wen

[香港/北京 10日 ロイター] – 南太平洋の島国バヌアツは、大海の中の比較的小さな島々にしか見えないかもしれない。だが中国の軍事戦略家にとっては、中国の海軍力を誇示する能力を大いに押し上げる可能性を秘めている。

豪フェアファクス・メディアが10日報じたバヌアツに中国の軍事基地が建設される可能性は、南太平洋を長年にわたり事実上コントロールしてきた西側大国による戦略的支配を複雑にすると、事態を注視する外交官や専門家は指摘する。

フェアファクス・メディアは、中国がバヌアツに恒久的な軍事拠点を構築する意向を打診し、そのような施設が建設される可能性について、すでにオーストラリアと米国の両政府高官が警戒感を募らせていると伝えた。

バヌアツの外相は、中国の軍事基地を自国に建設することについて中国側と協議したことは全くないと、報道を否定。中国国防省も報道は「事実と全く一致しない」と発表。同国外務省報道官は「フェイクニュース」だと非難した。

世界の海を股にかけた米国とその同盟諸国の海軍力に匹敵するような外洋海軍を持つ野望を中国が実現するには、広範な基地と友好港のネットワークが不可欠となると、西側、アジア各国の大使館付き武官は口をそろえる。

そのようなネットワークは、平時には軍事力と影響力を示すのに役立ち、また衝突が起きた場合にも不可欠な存在となると彼らは指摘する。

領有権を争っている東シナ海や南シナ海を巡って中国本土に近い場所で局地的な衝突が発生した場合でも、例えば指揮艦を護衛したり、通商路の封鎖を破るため、本土からはるか離れたところから作戦を行う可能性もある。

バヌアツは主要な通商路からは外れ、インド洋の港ほど重要ではないものの、米国の主要同盟国であるオーストラリア沿岸部に近い。また、中国の戦力展開の目標ラインであるアジアの列島線の外側に位置する米軍のグアム基地近くにも、中国プレゼンスを示すことが可能となる。

オーストラリア国立大学の太平洋地域専門家、グレアム・スミス氏は、バヌアツに中国軍基地ができれば、オーストラリアや米国、両国の同盟諸国に強力なメッセージを送ることになると指摘。

「米国とオーストラリア両国に、『われわれがここにいることに慣れなさい』という非常に挑戦的なシグナルを送ることになる」と、同氏はロイターの電話取材で語った。

バヌアツは、南シナ海における中国の立場を認めた最初の国の1つであり、太平洋諸国では唯一の国である。

バヌアツのサルワイ首相は2016年の就任以降、中国を2度訪問しているが、オーストラリアへはまだ行っていないとスミス氏は指摘。その一因として「オーストラリア側から重視されていない」ことを挙げた。

「はっきり言って、私たちは(バヌアツのことを)十分気にかけてきただろうか」と同氏は語った。

<警鐘>

 

もし南太平洋に基地を建設するなら、インド洋に面したアフリカのジブチに建設した支援拠点に次ぐ中国の海外基地となる。

中国は2014年、南インド洋で行方不明となったとみられるマレーシア航空機捜索のため、艦艇18隻を派遣するのに補給ラインや後方支援拠点の確保に苦労し、同国の海外拠点の欠如が露呈した。

当時、中国は艦艇の活動を維持するためにオーストラリア西部のアルバニー港に補充を求めざるを得なかった。戦時にはあり得ない選択肢だ。

防衛力拡大のため、軍事大国が選択肢を検討することは当たり前の話だと、上海政法学院の海事専門家Ni Lexiong氏は語った。だがバヌアツについては、中国からの距離を考えると、自然な選択とはみていないという。支配していない海域で活動支援を提供するのは困難であるからだ。

中国本土の安全保障を専門とする香港嶺南大学の張泊匯教授は、中国が長期的に維持できる基地と信頼できる港を渇望する一方、同国はインド洋をより重視していると指摘。「海軍力を拡大するにつれ、基地が必要になった。だが、小さな貧国以外に選択肢はほとんどない。バヌアツが中国の需要に完全に応えるのか、私には全く確信がもてない」

かつてはニューヘブリディーズ諸島として知られ、英仏の植民地だったバヌアツには、第2次世界大戦中、西側から2000キロ離れたオーストラリアへの日本軍の進軍を止めるために大規模な米軍基地が置かれていた。

フェアファクスの報道は、確認されていないものの、オーストラリアやニュージーランド、米国にとっては「警鐘」だと、ニュージーランドに拠点を置く安全保障専門家マーク・ランテーン氏は言う。

「バヌアツに中国の基地ができれば、オーストラリアとニュージーランドは、自分たちの裏庭で重大な戦略的課題を突きつけられたことを意味する」と、ニュージーランドのマッセー大学で上級講師を務める同氏は語った。

オーストラリア、フランス、ニュージーランドは、太平洋における中国の拠点を封じ込めるべく外交努力を加速させる可能性が高いと一部の専門家はみている。

豪シンクタンク、ローウィー研究所が先週発表した研究は、中国の影響力が拡大し、地域における戦略地政学的な競争が起きるリスクが高まっていると指摘。オーストラリア政府に対し、太平洋諸国との伝統的な関係を深める努力を一段と強化するよう促した。

(翻訳:伊藤典子 編集:山口香子)

 

 4月10日、南太平洋の島国バヌアツは、大海の中の比較的小さな島々にしか見えないかもしれない。だが中国の軍事戦略家にとっては、中国の海軍力を誇示する能力を大いに押し上げる可能性を秘めている。写真は中国の人民解放軍兵士ら。北京で2015年8月撮影(2018年 ロイター/Damir Sagolj)

 

関連記事
日米韓が最初の「インド太平洋」対話を、米国東部時間5日にワシントンで開催した。
中国共産党は最近のハイレベル協議や、南シナ海はフィリピンの排他的経済水域(EEZ)内であるという2016年の国 […]
中共は南シナ海の紛争を解決するためにベトナムを引き寄せている。対中国共産党包囲網の下で、各国はベトナムを引き込もうとしている。
中国が南シナ海で進めている人工島建設は、同海域の海洋環境に壊滅的な打撃を与え、サンゴ礁を破壊し、魚類資源を脅か […]
フィリピン国防省は昨年12月中旬、同国の戦略上重要な島に近い係争水域における「中国の活動」を監視した上で、南シ […]