(Thomas Peter - Pool/Getty Images)

一帯一路でスパイ活動が活発に 米セキュリティ会社が報告

セキュリティ会社の調査報告によると、中国共産党政府は世界規模の経済圏構想「一帯一路」を利用して、スパイ活動を拡大させているという。専門家は、諜報(ちょうほう)はプロジェクト建設地域のみならず、海外現地の中国の電子商取引プラットフォームや孔子学院を通じて、情報収集や世論操作が行われていると指摘する。

米サイバーセキュリティ会社ファイア・アイ(Fire Eye)の報告によると、東南アジア全域で中国側のスパイ活動は特に活発になっている。中国のスパイは一帯一路のプロジェクトや取引に関する情報を収集しており、サイバー攻撃のリスクも高まっているという。

フィナンシャル・タイムス15日付によると、ファイア・アイのサンドラ・ジョイス(Sandra Joyce)副社長は8月15日の記者会見で、一帯一路関連事業である鉄道計画に歯止めをかけたマハティール政権のマレーシアでは、中国の秘密情報機関がスパイ活動を活発化させたと述べた。

マレーシアのマハティール首相は就任後まもなくして、中国が請け負う200億ドル(約2.2兆円)規模の「東海岸鉄道」など、2つの一帯一路関連プロジェクトを「不公平な契約」として中止させた。

ジョイス副社長によると、ハッカー集団は、一帯一路関連国の行政や企業の意思決定機関から、より多くの情報やデータを獲得しようとしている。中国ハッカー集団「TEMP.Toucan」は、すでにマレーシア公共団体および民間団体のセキュリティ突破を試みていた。

別の中国ハッカー集団「TEMP.Periscope」は7月、いくつかのカンボジア国家機関や政治団体のシステムに侵入し、カンボジア総選挙を干渉したことが、ファイア・アイの調査で明らかになった。

ベラルーシは一帯一路のシンボル的プロジェクトであるヨーロッパ最大の工業団地「グレートストーン(Great Stone)」を建設している。報告によると、中国ハッカー集団「Roaming Tiger」は、同国をスパイの対象としているという。

さらに、中国ハッカー集団特有のマルウエアが2017年末、一帯一路をめぐる環境問題や人権問題を指摘した国際NGOを攻撃した。このマルウエアは、一部のEU加盟国の外務省のフィッシングメールにも含まれていたという。

ファイア・アイのジョイス副社長はサーバー攻撃の対象について、「彼ら(中国政府)にとって重要な財源となる国、またはプロジェクトの進捗(しんちょく)に影響する政策を策定する国のみ狙っている」と説明した。

孔子学院や電子商取引プラットフォームなどを通じてスパイ

英有力シンクタンクの国際戦略研究所(ISIS)のサマンサ・ホフマン研究アドバイザーはFTの取材に対し、中国政府はインフラ建設計画の監視だけでなく、収集したデータを利用して反対意見を抑えこみ、外交・安保政策について現地や国際世論をコントロールする狙いもあるとの見方を示した。

さらに、中国政府が海外に設置した電子商取引プラットフォームや海外の中国文化宣伝組織・孔子学院、通信ネットワーク、運送会社、ホテル、金融機関、物流企業など「情報ステーション」を通じ、さまざまな情報を中国国内の中央分析センターに送信しているという。

台湾大学の明居正・政治学教授は15日、ラジオ・フリーアジアの取材に対し、「中国の国家情報法によると、国民は、国の諜報活動に協力しなければならず、協力しないのは違法行為と定められている。もちろん協力すれば、他国はスパイ活動ととらえる」と指摘した。

明教授は、一帯一路は中国政府の政治・経済・軍事での競争力を高めると同時に、情報収集を促進させていると述べた。一帯一路で設置した拠点や建設作業地、港湾、プロジェクトに関わる金融サービスなど、いずれもスパイのスポットになりうると警鐘を鳴らしている。

(翻訳編集・王君宜)

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