【漢方医学】

疫病と戦う漢方医学の智慧

日本脳炎の流行を制した漢方処方

日本脳炎は、ウイルスによる感染症である。ワクチンの普及によって、最近は発症者が少なくなったが、かつて、大流行したこともあった。この病気に対して、現代医学では特別な治療法はなく、対症療法のみである。死亡率は20~40%で、生存者の半数以上は脳にダメージを受け麻痺などの重い後遺症が残る。

 1950年代に中国の河北省で日本脳炎が流行した。当時、患者の治療と感染拡大を有効に抑えるために、全国から漢方医学の有識者を招いた対策検討会が開かれた。専門家たちは、患者の病状と環境や季節の要素を分析した結果、白虎湯という処方が治療と予防に適当だと考えた。そして、この処方を投与した結果、患者はほとんど後遺症なく治癒され、流行も抑えられた。

 しかし、翌年に同じ地域で再び日本脳炎が流行した。前年と同じように白虎湯を投与したが、効果が得られなかった。困ったところに、再び有識者の対策検討会が開かれた。専門家たちは、患者の病状と環境や季節の要素を再度分析した結果、その年は降雨が多く湿気が強かったことが、白虎湯でうまく行かなかった原因だと考えて、白虎湯に湿の邪気を追い払う生薬の蒼朮(そうじゅつ)を加えるようにアドバイスした。このように処方が変化した後、見事に効果が得られた。

 白虎湯(びゃっことう)は、ほぼ2千年前の医学書である『傷寒論』に記載されている処方で、石膏(せっこう)、知母(ちも)、粳米(こうべい)、甘草(かんぞう)などの4種類の生薬から構成されたものである。体外の実験では、抗ウイルスの効果はないが、体質と病状に合わせて飲ませると、インフルエンザや風疹、麻疹、猩紅熱などさまざまな高熱を出す感染症に効果がある。

 体質、病状、環境などの要因を総合に考えて治療することは、漢方医学の特徴の一つである。

(藪益舎)