【紀元曙光】2020年5月19日

ウィリアム・グラッドストン(1809~1898)。英国の政治家で、ヴィクトリア朝の後半期に首相を4度務めた。

▼時代は19世紀。18歳で即位(1837)したヴィクトリア女王の在位は約60年に及ぶが、それは世界に冠たる大英帝国の最盛期でもあった。砲声が止まなかった大陸側のヨーロッパ諸国に対して、ドーバー海峡を隔てた英国は、イングランドがアイルランドを併合(ウェールズとスコットランドは近世以前に併合)して工業化への先頭を切って進む。

▼英の後ろには仏、独、普、墺洪、露、伊、西、葡がぞろぞろ続いた。そんな欧州各国に共通した性(さが)は、国の大小を問わず、アジアやアフリカに植民地を持とうとしたことである。小国ベルギーが巨大なコンゴを所有したのは、世界史における一枚の戯画と言うしかない。

▼英国は、インド産のアヘンを清(中国)へ売って暴利を得た。そのアヘンを林則徐が焼き捨てると、英国は清朝に難癖をつけて阿片戦争(1840~42)を起こす。清朝は敗れ、香港が英国へ割譲(1842)される。

▼阿片戦争時、グラッドストンはまだ野党の一議員だったが、その後、大臣や首相になっても、自国の帝国主義に辛辣な批判を加えた。キリスト教への敬虔な信仰に基づく彼の正義感が、阿片戦争を「不義の戦争」として許せなかったからだ。

▼ダーウィンの進化論も容認しなかった。その硬骨ゆえにヴィクトリア女王には好まれなかったが、明治日本の青年たちは彼を敬愛した。偉大な政治家であったグラッドストンは1898年5月19日、永眠する。88歳。