【紀元曙光】2020年6月14日

ジョージア州アトランタ。その地名がニュースから聞こえて、手元が止まった。
▼6月12日、アトランタで白人警官が黒人男性を射殺した、という。日本には、一部を切り取ったような報道しか聞こえてこないので、詳細は分からない。今後への影響はなおさら読めないが、懸念は小さくない。
▼むろん射殺は避けるべきだった。しかし、現場の「その瞬間」というのは、平常時とは全く違うことが起こり得る。その理由は、ある。(後述に回す)
▼前稿に続き、再度の言及になるが、映画『風と共に去りぬ』の舞台が、まさにこのアトランタだった。原題はGone With the Wind。米国南部に大農場主によって築かれた「貴族趣味」が、南北戦争の悲惨な敗北によって、文字通り「風とともに消えてしまった」ことになる。
▼あまりにも有名なこの映画は(マーガレット・ミッチェル原作の小説も含めて)公開当時から人種問題を指摘する声があったという。その意見に同調する人にとっては、いかなる名作も駄作という評価になろう。そもそもこの映画の主題は黒人奴隷ではなく、その黒人を使役していた「南部」の滅亡と、祖国が敗れても不撓不屈であろうとするスカーレット・オハラという強烈な女性像にある。
▼司馬遼太郎『街道をゆく 愛蘭土紀行』に、「ミッチェルが描いたのは、ひょっとすると、アイリッシュ・ストーリーだったのではないか」とある。オハラという、アイルランド姓もそうだ。「タラへ帰ろう」というラストシーンも、その地名がアイルランド人の精神的聖地であればこその感動となる。(次稿へ続く)