あなたの人生の目標は何ですか? 年齢によって「目標」は変わるもの

目標とは感動を与えるポスターのようなものであり、やる気を起こさせるスピーチのようなものです。目標を見つけてこそ、人生で何をするべきかがわかります。私たちの目の前に道ができ、確固たる信念を持ってその理想像を追っていけるのです。

でも本当にこれが目標の役割なのでしょうか?

自己啓発ブームと並行して、人の生涯において目標がどのように変化するかという研究が30年以上行われています。この研究では、青年期、壮年期、老年期それぞれにおける問題への取り組み方が調査され、目標は一般的に考えられるよりもっと複雑で、それでありながら希望の持てるものであることが明らかになりました。

まずは良い点をあげてみましょう。
目標は揺るぎないたった1つのものでなくてはならない、ということはありません。人生の過程、それ時々にあった目標を見つければいいのです。

第一、目標は見つけるものではありません。慎重な行動・思考によって培われるものであり、人生の中で出たり消えたりするものなのです。

幸福感と同じですが、目標も到達点を意味するものではありません。その過程でありその実践を意味するものなのです。自分にとって何が問題で、どんな人間になりたいかを探求し、それに向かって実践していけば、人生のどの時点においても目標を持つことができるのです。

目標の専門家で米カリフォルニア州クレアモント大学院大学助教授を務めるケンダル・ブロンク氏が率いる研究グループが発表した2009年の調査結果によると、目標とは「生涯にわたって存続するプロジェクト」だと記されています。この調査により、人生の変化に応じて目標意識を再考・再設定することができる限り、満足度が高く意味のある人生を楽しむことができるということがわかっています。

青年期:目標を探求する年代

人生において、目標とは、追求しなくてはならない大きなゴールを意味するわけではありません。研究によると、目標とはある人が意義を持って長期間持ち続ける目的のことであり、良い変化をもたらすことを目指すうちにその人の範囲を超えてしまうこともあるということです。貧困問題、芸術活動、技術革新に加え、人々の人生をより良いものにする中に目標を見つける人もいるでしょう。

ブロンク助教授によると、このプロセスは、自分は何者か、自分は何に重きを置き人生から何を得たいのかということを探究し始める10代に始まるそうです。音楽やボランティアなど様々なことに興味を持ち活動していくうちに、追い求めたい方向性を見つける若者もいます。親のガンや地元の襲撃事件など、人生の難局を経験することによって特定の問題に取り組もうとする若者もいるでしょう。両親やコーチなどしっかりとした目的を持って人生を歩む人にインスピレーションを受ける若者もいるでしょう。

自分が持つ関心やスキル、つまり自分の個性を知ることは、目標追求の鍵だと言えます。ある研究グループは2011年、高校・大学生を対象に、目標意識・自己意識についての調査を行いました。仕事、価値観、友情、政治、宗教、性別に対してどれだけ明確な意見を持っているのか調べたところ、自己意識が確立していると目標もはっきりする傾向があることがわかりました。そのような人は幸福度も高く、将来にも希望を持っていました。

同研究グループは2012年にも若者を対象に調査を行い、同じような調査結果を得ました。しかしそれは前回とは逆パターン、つまり、目標がはっきりしていると自己意識が確率されることが導き出されました。米イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で助手を務めるパトリック・ヒル氏と米コーネル大学のアンソニー・バーロウ助教授は、「自己と目標の発達はからみ合っている」と報告しています。

しかし、米スタンフォード大学教授で『The Path to Purpose(原題)』の著者でもあるウィリアム・デイモン氏によると、10代の若者のうちたったの20%しかはっきりとした目標意識を持っていないそうです。デイモン教授はこの20年、仕事、家族、社会生活において人々がどのように目標を発達させるのかを調査しています。

それ以外の若者は、非現実的な夢を抱いたり、夢中になる趣味を見つけたり、ただ単に高校生活を切り抜けようとしています。幼少期から青年期にかけてが目標の基礎を築く時期だと言われていますが、実はまだ、人生から何を得たいのか追求している時期なのです。

壮年期:目標に多忙な時期

米スタンフォード大学のデイモン教授は、20代・30代は目標を見つけて多忙になる時期だと定義づけています。この時期にキャリアを築き始め、家族を持ち始めるからです。この2つのことは、宗教、ボランティアと並んで、壮年期の目標の主な原因となっています。

家族の領域では子育てや親の介護を通してより深い目標意識を見つける傾向があり、キャリアにおいては部下をサポートしたり、並外れた成果をあげたり、社会に貢献したりすることによって満足感を得ているとデイモン教授は述べています。

教育専門家のポール・レバフ氏の子供は、特別支援が必要だったそうです。そのことを知った時、レバフ氏は家族、キャリア、そして自分自身の目標意識が転換期に差し掛かったと感じました。それ以来、レバフ氏は、自分の家族を含め同じ境遇に置かれた子どもや大人が元の生活に戻れるよう支援する活動に力を入れています。そして、この分野に携わるうちにバランス感覚を養うことができたと話しています。

ギャップイヤー(大学進学や就職前の一定期間、勉強や仕事から離れて様々な人生経験を積むこと)を取ったり大学で面白そうな科目を選択したり、若者にとって目標を見つけることは刺激的な冒険のように感じるでしょう。しかし壮年にとって目標は、もっと差し迫ったものです。

米クレアモント大学院大学のブロンク助教授率いる研究グループは2009年、10代と20代前半の若者約400人と35歳前後の壮年約400人を対象に調査を行いました。その結果、若者は目標を探す時に人生の満足感を得ますが、壮年は目標を探せば探すほど人生の満足感が薄れることがわかりました。この研究グループは、壮年が持つ文化規範と自身に対する過度な期待がこの現象に影響していると推測しています。

「私たちの文化では、青年期は興味のあることを探求し、壮年期はその段階をすでに終えて当然だと考える傾向がある」と研究グループは述べています。

目標がないと面白くない時期もあります。しかしブロンク助教授によると、目標を持つことは常に楽しいことだとも言えないようです。達成まで長い時間を必要とする非常に大きなゴールを追い求めると、ストレスがたまりやる気がなくなります。子育てを経験した人ならわかるでしょうが、意義のあることが必ずしも日々の楽しみややる気を起こしてくれるわけではないのです。

葛藤はもちろんあるでしょうが、方向性・目標意識があれば、満足感に満ち健康的で長い人生を歩むことができるのです。

目標の変化

目標は壮年期でピークを迎え、老年期の方向性・目標意識は薄れていく傾向があります。50~92歳を対象に行った調査で、そのたった30%だけが、しっかりとした目標を持っていることが判明しています。

その原因は驚くほどのものではありません。壮年期にとって目標の最大要因は仕事と家族であり、退職、子どもの独立によってその要因がなくなるのです。会議や締め切りに追われる日々やサッカーの試合や宿題の手伝いをする日々は、いきなり終わりを迎えてしまいます。それは自分を定義していたもの、自分らしさが消えてしまうような感覚です。それに加えて健康上の問題も浮上し、様々な活動に参加したり人に会ったり、忙しく動き回ることが身体的に難しくなっていきます。

老年学者であり「AgeWave(エイジウェーブ:老年・老後問題を専門に扱う米会社)」創立者でもあるケン・ディクトワルド氏は、一般社会は高齢者の価値と知識を認識せず、高齢者は弱くて重要ではない存在で、新しいテクノロジーを使いこなして若者世代とつながろうとしないと決めつけていると考えています。たいていの高齢者は、リラックスして老後を楽しめと言われてもどうしたら良いのかわからないのです。

もちろんこれは、すべての人に当てはまるわけではありません。老後に強い結びつきを感じ、前向きに捉えている人はうまく切り抜けられる傾向があります。ある研究では61〜70歳の高齢者に聞き取り調査を行い、目標意識を維持・強化できる人の傾向を割り出しました。この調査結果によると、このような人はより良い人間になろうと自分の内面を磨いており、新しいスキルを学び、長年抱いてきた苦悩に取り組んでいます。米スタンフォード大学のデイモン教授によると、退職や子供の独立というこの小休止は混沌とした壮年期では不可能だった自己観察への入り口であり、本当に大切な事がらに再び結びつくことだと話しています。

米ニューヨーク・タイムズの記者であるジョン・リーランド氏は、ニューヨークに住む85歳以上の高齢者6人の生活に1年間密着したことがあります。リーランド氏の友人となった彼らそれぞれの人生は、リーランド氏が執筆した幸福感に関する本の中に収められました。リーランド氏は目標意識を持ち続けている高齢者ほど柔軟性があり、人生にうまく対応できる傾向があることに気がつきました。生活の変化をうまくかわし、新しい出来事に対してもこだわりがないのです。

「このような高齢者は、自分が一点に留まっていると考える人より、自分の役割が絶えず変わり進化していくことを理解し、誰もが直面する人生の浮き沈みに対処することができる。彼らはそんな人生をいまだ歩み続けているのだ」とリーランド氏は語っています。

高齢者が目標を追求することと10代の若者が目標を追求することには共通点があります。Encore.orgという世代間の結びつきを目的とする団体の設立者、マーク・フリードマン氏も、この類似性に気がついています。Encore.orgでは研修見習い制度の代わりに特別研究員制度を設け、非営利団体や基金、その他の団体で高齢者が最大1年間働ける制度を導入しました。この制度は、高齢者がキャリアを再び見つけ出すことを目的としています。これは社会に利益をもたらすと同時に世の中に貢献できる目的に満ちた活動であり、その功績を後に残すことができるのです。

Encore.orgのPurpose Prize(優秀な老人起業家に贈られる賞)を2007年に獲得したギャリー・マックスワージィー氏は、56歳の時に妻をガンで亡くしました。食品配送業に30年以上従事したマックスワージィー氏は社会に恩返しがしたいと考え、フードバンク(いろいろな事情から流通させることのできない安全な食料を配給する団体)でボランティアを始めました。するとすぐにそこには大きな問題があり、それは自分にとって大きなチャンスであることに気がつきました。生産者は市場に出せない農産物の多くを埋め立て処分に回します。このような農産物は売ることができないし、フードバンクにとっても生鮮食料品の受け入れは難しかったのです。そこでマックスワージィー氏はこの問題を解決するために「Farm to Family」という団体を立ち上げ、新鮮な野菜・果物がそれを必要とする家庭に行き渡るよう活動を始めました。

Encore.orgには他にも、医療サービスを十分に受けられない患者を治療する元医師や、行政のオンラインサービス改善を手助けする元テクノロジー会社役員などがいます。その他にも、米ハーバード大学のAdvanced Leadership Institute(退職者の社会貢献を促すプログラム)やModern Elder Academy(中高年向けにワークショップを運営する団体)などは、再出発を目指す中高年向けに様々なコースを提供しています。

Encore.orgを設立したフリードマン氏の経験によると、まったく新しい目標を見つける人は珍しいそうです。たいていの人は、過去に培ったスキル、知識、価値を頼りに新しい人生を始めようとします。

これは間違いなく良いニュースです。このことは、中高年になる頃には目標の基礎がしっかり定着していることを意味しているのです。

目標の実践

数年前、米クレアモント大学院大学のブロンク助教授は、若者の目標意識について聞き取り調査を行いました。若者の目標意識がどのように発達するのか詳しく調べることが目的でしたが、ブロンク助教授は若者の多くが聞き取り調査を楽しんだことに驚きました。そして研究チームは、若者に何が大切か語ってもらうことが、彼らの目標意識を増加させたことに気がつきました。これは調査チームが考えてもいなかった新発見でした。

そんなことからブロンク助教授は、目標が何なのか分からなく気がついていなくても、誰でも目標は持っているものだと信じています。

「私たちはみな関心事を持っており、世の中に変化をもたらすことのできる特別な才能が備わっているはずだ」とブロンク助教授は語っています。

他の研究者も同意していることですが、「私の目標は…」というシンプルな文に書き出すことができなくても、私たちは目標意識を持っているのです。

今回この記事を通して、私たちは様々な目標を持つことができ、人生を経るにつれ、計画や優先事項が変わり、その重要度も変化してくることを見てきました。転職、離婚、病気、還暦を迎えるなど、私たちは人生の節目に直面すると少しペースを緩め、振り返り、何を優先すべきか考え直すものです。

つまり、目標とは継続的に実践するものです。ニューヨークのリーランド氏が高齢者から学んだのは、まさにこのことでした。

最後に、リーランド氏の言葉を紹介しましょう。「彼らは、目標とは探すものではなく自分が生み出すもので、一生涯生み出さなくてはならないものだと信じている。もし幸福度について聞いても彼らは同じように答えただろう。目標は自分の中にあるものであって、自分で得て、認識して、培っていかなければならないものだ。待っていてもしょうがないのだ」

この記事は、ジョン・テンプルトン基金(有名な米投資家ジョン・テンプルトン氏が設立した基金)が支援したGreater Good Science Center(GGSC:カリフォルニア大学バークリー校に本拠地を置く研究団体)のイニシアチブ、「Finding Purpose Across the Lifespan(『一生涯を通した目標の探求』という意味)」の一環として発表されました。GGSCは様々な記事、ポッドキャスト、その他の手法を通して、人生の様々な段階においてどのように目標意識を深めるのかを追求しています。

キラ・M・ ニューマン氏はGGSCで編集長を務めています。この記事は、Greater Goodオンラインマガジンに掲載されたものです。

 

(大紀元日本ウェブ編集部)