【紀元曙光】2020年10月31日

1年前のこの日、沖縄の首里城が燃えた。
▼正殿は全焼であった。小欄の筆者はテレビで見ただけであるが、夜空全体を赤く照らす炎を、現実のものと受け入れることができなかった。地元住民の方々が、涙あふれる目で首里城の最期を見届けようとしていた表情を、忘れることはできない。
▼燃え尽きた首里城は、可能な限り忠実に復元されたものである。2019年1月、30年に渡る工事が完成した。琉球王朝時代からの実物ではないが、それを象徴と仰ぎ、誇りに思う沖縄の人々にとっては、まさに琉球文化を今に伝える心の王城だったのだ。もちろん全ての日本人にとって、首里城は宝である。
▼再建には、巨額の費用がかかるのだろう。だが、国や県の公的責務と、日本人の、あえて言えば災難に屈しない国民精神の二面から、それをやらなければならない。単なる観光振興ではない。文化を軽んじる国に、未来はないからだ。2016年の地震で大被害を受けた熊本城も、着実に修復が進んでいる。日本人の修復技術はすごいもので、石垣の石ひとつでも忠実に再現して積み直すのだ。中国では、こうはいくまい。
▼私事ながら、小欄の筆者も4年前に首里城を訪れて大いに感銘を受けた。琉球王国は、その地理的条件と、中国大陸および日本本土との二方面外交の知恵を生かして、なんと450年の王朝を保った。もちろんそれには多大な困難があり、特に薩摩藩による琉球への圧迫は苛烈だったが、世界史的に見ても、稀有な成功例と言ってよい。
▼筆者は東京の人間だが、沖縄が大好きである。それが申したくて、書いた。