【紀元曙光】2020年11月26日

故・手塚治虫氏には、師を慕う多くの「弟子」がいた。
▼内弟子という意味ではない。マンガの神様と呼ばれた手塚氏を崇敬するあまり、自身も漫画家になった人々のことである。小欄の筆者は、特にマンガ少年というほどでもなかったし、もとより現代アニメにも詳しくないので、昨今の鬼滅ナントカはさっぱり分からないが、少年時代の一時期に手塚マンガの秀作に触れていて良かったと思う。
▼人間の尊厳を学ぶ「教材」であった。『ブラックジャック』の主人公が子どもの頃、不発弾の爆発で顔面に重傷を負う。医師は、救命手術のため健康な子どもの皮膚が欲しかった。ただ一人「僕のを使っていいよ」と名乗り出てくれた混血児タカシの皮膚を移植して、九死に一生を得る。色の異なる自分の顔を、タカシがくれた「友情」と思い、その信義を守って再度の手術を拒む主人公であった。
▼先日、11月20日に亡くなった矢口高雄さんも手塚マンガに心酔し、秋田での銀行勤めを辞めて同じ道に入った「弟子」であった。『釣りキチ三平』を代表とする釣り漫画が有名だが、日本の山や川の風景を、ペン先で緻密かつリアルに描き出す技術は圧巻であった。小欄の筆者も、矢口さんの描く自然美に、魅了された思い出がある。
▼手塚マンガのヒューマニズム。矢口マンガの大自然の美しさ。そういった要素を突き詰めていくと、自ずと「神」の域に近くなる。
▼金持ちから法外な治療代を取る無免許医のブラックジャックだが、彼がもし、臓器狩りで金儲けする悪魔の医者を見つけたら、その眉間に必殺のメスを投げつけるだろう。