【紀元曙光】2021年1月10日

「刃物のやうな冬が来た」と詩人・高村光太郎(1883~1956)は詠った。

▼光太郎が詩「冬が来た」に描いた冬は、厳しくも、躍動的なエネルギーに満ちた季節だった。「冬よ。僕に来い、僕に来い。僕は冬の力、冬は僕の餌食(ゑじき)だ」。そう寒風に向かって胸を張ることで、大自然の力を自身に一体化させようとする。高村光太郎、このとき30歳。まだ若い。

▼今年の冬は、本当に刃物で切りつけてくるような、まことに冷徹なものになっている。東京は、おおむね晴れているが、肌に感じる空気は例年にも増して冷たい。コロナ新規感染者が2千人を超える日が続くなか、都民は、可能な限りの予防策を講じながら、自身と家族を守り、さらに東京を心肺停止させないため、必死の努力を続けている。

▼一方、雪国では、雪国の人が驚くほどの豪雪に見舞われているという。東京ものの筆者には想像もつかないが、雪とは、積もれば家もつぶすほど重いものだそうだ。それにしても、雪下ろし中の事故で亡くなった方は高齢者が多いらしく、痛ましい限りである。

▼人と人が、もっと近寄って、声を掛けあい、励ましあい、喜びも苦労も分かちあうことで、ともにこの国難を乗り越えたいと思うのだが、それを邪魔する中共ウイルスの卑劣さに、改めて憤りを覚える。

▼高村光太郎に「牛」という長い詩がある。その最後部は「牛はのろのろと歩く。牛は大地をふみしめて歩く。牛は平凡な大地を歩く」。今年は、牛のように、のろのろと、しかし「平凡な大地」を確実にふみしめて歩む一年にしても、よいかも知れない。

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