チベットの光 (7) 酒のうえでの過ち
ウェンシーは酒に興じ、酔って山道を登り始めた。歌えば歌うほどに、その声は高らかになり、気持ちよさそうな歌声が山谷に響き渡って、風が吹くと木々がそよぐので、それらが合唱しているようだった。彼は感極まって、歌ったり飛び跳ねたりしながら、知らず知らずのうちに家路についていた。
この時、ウェンシーの母は、厨房で裸麦を炒っていたが、遠くからこの歌声を聴くと眉を顰めてつぶやいた。「なんてきれいな歌声なのかしら。声はまるで息子のような…」 「ありえない、ありえないわ。歌声はとっても気持ちよさそうに…わたしたち親子がこんなに苦労しているのに、ウェンシーがありえない…」 「これはもしかしたら幻聴かもしれない。わたしがウェンシーのことをいつも気にかけているから…」
しかし、彼女の思いとは裏腹に、その歌声はますます大きくなって家に近づき、ますますウェンシーの声に似ているではないか。
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