【医学古今】

蜂針療法

蜂針療法とは、生きているミツバチの針を皮膚に刺し、蜂毒を体内に注入することによって病を治療する方法です。古代エジプト、インド、ローマ、ドイツ、ロシア及び中国で、リウマチなどの病気を治療するための民間療法として普及していたことが文献から分かっています。

蜂針療法は針、薬、灸の三つの効果を兼ねています。ハチの針を刺すことによって経絡の血気を調整し、陰陽のバランスを整える「針」の効果、ハチの毒を注入することによって免疫機能を改善し、消炎鎮痛を促す「薬」の効果、そして、経絡を通して邪気を追い払う「灸」の効果です。ハチの針で刺した部分は充血して軽い腫れを伴うので、局部の皮膚温が高くなってお灸を据えた時と同じ効果があるのです。

経験的に蜂針療法は、リウマチ、免疫力の低下、皮膚疾患、アレルギー性鼻炎、子宮筋腫、各種の神経痛、頸椎症、骨増殖症、自律神経失調症、気管支喘息、硬直性脊柱炎、五十肩、関節の腫痛、癌などの治療に使われることが多い方法と言えます。蜂針療法は安全性が高く、副作用はほとんどありません。それでも「蜂毒」を注入することに変わりはないため、妊婦や先天性心疾患、性病、蜂毒アレルギー、過敏体質、腎炎、全身虚弱などの疾患を持っている人には使用を控えるのが一般的です。

日本では現在、民間療法として蜂針療法を用いることはあっても、医療機関で採用されているケースはほとんどありません。本来なら鍼灸治療の補助方法として使われるべきですが、「蜂毒の注入」があるため、医療法上、薬の使用や注射を禁止されている日本の鍼灸師は用いることができません。中国の鍼灸師は医師の資格も兼ね備えていますから、蜂針療法を自由に使うことができます。それでも、生きている蜂を使用するのはなにかと不便なので、「蜂毒注射液」を生成してツボに注射する場合もあります。

(漢方医師・甄 立学)