≪医山夜話≫ (12)

幻肢痛

私の診療所に入ってきた彼は、足を少し引きずっていました。暗くて辛そうな表情を浮かべ、足が痛いと訴えます。私は彼に通常の質問をした後、彼の舌と脈を診ました。

 問診の後、書類を取りにしばらく診療室を離れて戻ってくると、診察ベッドに横たわった彼の横に1本の義足が置かれているのに気づきました。彼の右足は、太ももの付け根から切断されていたのです。義足に注目している私に彼が気づき、診療室の空気は急に重苦しくなりました。互いに相手の目を避け、しばらく沈黙していました。私は彼の説明を待っていましたが、彼は私に質問されるのを待っていました・・・。

 そして、私から沈黙を破りました。「どのような痛みですか? 激しい痛み、断続性のある痛み、針で刺されるような痛み・・・それとも、かすかに感じられる連続性の痛みですか?」

 彼は唇をしっかり閉じて、質問に答えようとしません。しばらくすると、彼はため息をついて、「おそらくあなたも私の精神状態がおかしいと思うでしょう。私の話を信じる医者は一人もいません。右足は確かになくなったにも関わらず、ずっと断続的に痛いのです。しかし、この痛みは私が想像したものだと医師たちは言うのです・・・」

 その時、やっと分かりました。彼は、すでに存在していない右足の痛みのことを言っていたのです。

 「なぜ足を切断したのですか?」

 「足にこぶができて、正確な診断もされていないうちに、かろうじて医師免許を取得した未経験の医者に切断されてしまったのです・・・」

 私はぞっとしました。この空間に右足はもう存在していませんが、本来切断されるべきでなかった右足が、ずっと悲鳴を上げているようでした。彼が何度も、すでに存在していない右足を触ったりすることに私は気づきました。しかし、彼の手が触れたのはそこにあるべき右足ではなくて、ベッドでした。

 私は、「下半身の病気を上半身で治し、右側の病気を左側で治す」という治療法を取り、彼の左足と左腕にハリを刺して、「百会穴」を閉じました。間もなく、彼は熟睡しました。目が覚めた時、とても心地よくなった彼は次回の診療日を聞いてきました。

 私は、「もうここに来る必要はありません。私にできるのは、これだけです。足が失ったことについては、もう少し慣れることが必要でしょう」と答えました。

 「穏やかな心で元気を養い、善を多く施せばよし。怒りを戒めて徳を守り、言行を慎むべし」。これが、彼のために私が出した処方です。
 

(翻訳編集・陳櫻華)