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「なんとかしたい歯の痛み」漢方からの処方箋

歯痛はただの病気ではない。命が取られるのと同じだ」。そんな俗語もあるくらい、歯の痛みはぞっとするほど恐ろしいものです。
 

漢方医学から診た歯痛への処方


漢方医学では、痛む個所と問題のある臓腑経絡との関係を重視しますので、痛みが発生している歯がどの臓腑に帰属するかを判別した上で、病変が発生したその臓腑を主な対象として、投与する生薬あるいは鍼灸などの方法を選択していきます。

歯肉の腫れや炎症は漢方医学の歯痛の範疇に属し、その根本的な病因は陽明の実火(じっか)にあります。陽明とは、六腑に属する陽経の一つで、最も陽気が盛んな経です。

実火は、陽実証(ようじつしょう)が炎症、充血、発熱をおこしたもので、通常は寒剤を用いて治療します。

また、上の歯は「足の陽明胃経(ようめいいけい)」に属し、下の歯は「手の陽明大腸経(ようめいだいちょうけい)」に属します。

もし上下の歯が全て痛むならば、漢方医は、全体として「腎臓と関係がある」と診断します。漢方では歯も骨格の一部に属するので、「骨が外側に出ている」と表現するのです。

その骨の強弱は、体内にある腎臓が関与しています。腎臓の状態の良し悪しが、特に歯の状態に現れると考えるのです。

そこで漢方による歯痛の治療法は、その原因が「実火」であるか「虚火」であるかによって分けられます。
また、歯痛の症状を緩和させる方法として、広く応用できるツボ押しもあります。

(1)実火の場合
胃火湿熱の患者です。火の特性は炎にあります。歯は頭部にあり、高位にありますので、もし脾胃(脾臓と胃)にもともと積熱があり、その機能が不調であれば、湿熱の邪が乗虚(虚に乗じて侵犯する)して、歯ぐきに滞ります。

その結果、気血の滞留をもたらし、脈絡の瘀阻(おそ)や疼痛が現れます。治療の原則としては清胃潟火と涼血止痛。処方には、主として清胃散(せいいさん)を使用します。

(2)虚火の場合
主に腎臓の陰虚火旺(いんきょかおう)が盛んになっていることを指します。治療には、腎臓に有益で精を補い、滋陰降火の作用があるものを用います。

処方としては知柏地黄丸(ちばくじおうがん)が主となります。もしも腎陰虚と胃火を併発した場合は、玉女煎(ぎょくじょせん)を適量使って治療することができます。

(3)合谷のツボ押し
手の親指と人差し指の間にあるツボ、合谷(ごうこく)を指圧すると、全身の血液循環が良くなるので、高い血圧を下げる効果があります。

また肩こり、頭痛、歯痛などの痛みを緩和する効果もあることから「万能ツボ」と呼ばれるほど応用範囲の広い指圧ポイントです。

左右の手の親指と人差し指を寄せて筋肉が盛り上がったところを、反対の手の親指で押して探してみてください。少し痛く感じるところが合谷です。
 

臨床経験としての実例


筆者が歯痛の患者を治療する際には、主として清胃散を使用しています。治療効果もよく、早く効きます。

以前、筆者が勤務する漢方医院に、歯痛で泣く6歳の少女が連れて来られました。私が清胃散を主とする処方に少量の胃腸薬を加えて服用させると、わずか10分ほどで効果が現れました。

また別の日には、中年男性がひどい歯痛で来院しました。
清胃散を主とし、加安中散を少し加えた処方で様子を見ることにしました。3日後に、再びその男性が来院すると、こう私に言いました。

「李先生、漢方がこんなにすごいとは知りませんでした。3日前は死ぬほど痛かったのですが、今はほんのわずかな痛みが残るだけです。そうとは知らないものですから、今までに何本も無駄に歯を抜いてしまいました」

痛みがなくて歯がぐらぐらしている場合、あるいは加齢により歯がゆるくなっている場合は、腎虚の可能性があります。六味地黄丸(ろくみじおうがん)に補腎薬を追加して処方しますが、この薬を夜に服用したあと食事をしてはいけません。

また、服用したあと、歯が正しく固定されるよう手で歯をきちんと押さえるようにします。
もし押さえていなければ、薬を服用した後に歯が曲がって固定されます。

そうなると元に戻すことができません。後で歯列矯正をするのは、かなりの時間と費用を要することになります。
(文・李應達/翻訳編集・鳥飼聡)