英雄叙事詩ーーホメロスの叙事詩 『イリアス』 『オデュッセイア』(二)

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おもしろいことに、『イリアス』では、戦前の人物描写で多くの比喩表現が使われている者ほど、後に勝者となることが多いです。

ホメロス叙事詩」の作風にはある鮮明な特徴が見られます。人物の名前の前に特徴を表す語句がついているのです。例えば、「知略にたけているオデュッセウス」「冷静沈着なゼウス」「スカートがひらひら舞うヘレネ」「丈夫な鎧を身につけたアカイア人」など、この類の表現は場面やその後の文脈に合わせて変わっており、『イリアス』の中のギリシア一の勇士アキレウスに関する表現だけでも、少なくとも24か所ありました。

このような修辞技法は、読者のその人物に対する印象を深めると同時に、叙事詩の特徴でもあります。
 

『イリアス』

『イリアス』は全編1万5693行あり、24巻に分かれます。ギリシアとトロイアの10年間に渡るトロイア戦争の最後の一時期をメインに語っています。物語には多くの人物が登場しており、人物像が少々複雑です。

 

『イリアス』の表紙。1572年・Rihel社。(パブリックドメイン)

 

スパルタの王妃ヘレネを奪ったトロイアの王子パリスに復讐するため、ヘレネの夫メネラーオスをはじめとし、その兄アガメムノーンの指揮の下でギリシア側はトロイア側と10年間に渡る戦争を開始することとなりました。

戦争が間もなく終わる頃、ギリシア側の総帥アガメムノーンは、妾(アポロンの神官の娘)の返還を拒んだことから、アポロンの怒りを招き、疫病が蔓延しました。またその対策を巡ってアガメムノーンとアキレウス(ギリシア一の勇士)との間に諍いが起こり、侮辱されたアキレウスは戦場に立つことを拒みました。アキレウスは母テティスに、「ゼウスがアガメムノーンを処罰するよう、母からゼウスに訴えてください」と頼みました。

 

「アキレウスの怒り」1819年、ミシェル・マルタン・ドロラン作。(パブリックドメイン)

 

アキレウスのいないギリシア軍は次々と敗退していき、軍船まで燃やされました。この窮地に立っても、アキレウスは依然として参戦を拒んでおり、戦況を見かねた親友のパトロクロスはアキレウスの武具を借りて勇戦するも、結局、トロイア側の総帥ヘクトルに討たれました。親友の仇(あだ)を報ずるために決起したアキレウスは、戦場に赴き、ヘクトルを倒しました。

 

「ヘクトルを打ち倒すアキレス」1630年-1635年、ピーテル・パウル・ルーベンス作。(パブリックドメイン)

 

ヘクトルの葬儀が『イリアス』の最終編となります。
(つづく)

(翻訳編集・天野秀)

文宇