「春の妖精(Fairies in the Spring)」(1906年、アーサー・ラッカム作)(パブリックドメイン)

童話の世界を描く挿絵画家:アーサー・ラッカム(上)

誰しも心の中に無邪気な思いが隠れ住んでいます。天使や妖精小人巨人、顔がついている木、話せる花、伝説の英雄、眠り姫など、大人になって、社会に出て、これらは夢の中にしか存在しない想像上のものだと認識するでしょう。しかし、子どもの頃、それらのものが実際に存在していると固く信じていたことはありませんか?

これらの人物は私たちの目に見えない世界に存在しています。しかし、アーサー・ラッカム(Arthur Rackham、1867年─1939年)のような挿絵画家が、目に見えない存在を描き出しているから、私たちにドキドキハラハラするような冒険やユートピアを教えているから、心の底から信じられたのです。

ジェームス・マシュー・バリー(J.M. Barrie)の小説『ケンジントン公園のピーター パン』(Peter Pan in Kensington Gardens)の中の挿絵はラッカムが描いたものです。小説の中には「妖精たちは『私たちは楽しい』と言わずに、『踊りたい』と言うのだ」と書かれています。生い茂る茶色の植物の間で、妖精たちが踊り出し、いかにも楽しそうな雰囲気を醸し出し、生き生きとしています。

 

「踊る妖精たち(Dancing Fairies)」(ラッカム作)『ケンジントン公園のピーター パン』の挿絵。(パブリックドメイン)

 

子どもたちの冒険

ラッカムの絵は子どもたちに想像力を発揮する空間を与え、神秘的な場所への冒険の旅へと連れて行きます。おもしろい想像の世界から、ラッカムの繊細な絵画を通じて、子どもたちは今いる現実の世界を知ることができるのです。

ラッカムが描いた人物と場面を通じて、子どもたちはその状況に身を置くことができます。例えば、妖精と小鳥が喧嘩した後、両者がプンプンと怒りながら飛び去って行く様子を見たり、老いた木の下に座っている真面目な顔の小人を観察したり、あるいは、岩に寄りかかりながら昼寝をしている妖精と一緒に休んだりなど、どれも「安全な冒険」です。

しかし、突如、妖怪が現れ、ピンチな状況に陥った時、子どもたちは、自分が現実世界にいて、安全であると分かっているので、現在の状況に対して彼らはこれからどうするのか、どうすれば彼らを助けられるのかと質問し、解決策を考えることができます。

 

ラッカムが描いた挿絵:礼を言う3人の妖精と、旅を続ける少女。(パブリックドメイン)

 

ラッカムがフローラ・アニー・スティール著作の『English Fairy Tales』のために描いた挿絵は、ある少女が水面に浮かんでいる3つの頭を見下ろしている場面となっています。この挿絵を見て、「少女は道を聞いているのかな?」と思うかもしれません。また、3つの頭の表情を見ていると、彼らは何か話したがっているようでもあります。もちろん、答えを知りたければ、子どもたちはこのお話を読まなければなりません。

ラッカムはまた若者や大人向けの文学作品のためにも挿絵を描いています。北欧神話ギリシア神話シェイクスピアの作品などからも彼の挿絵が見られます。例えば、シェイクスピアの傑作『夏の夜の夢』の中の妖精やロバの挿絵など、どれもラッカムの才能を表しています。

また、『神々の黄昏』の中の挿絵は、ジークフリートがフレイヤのもとを去り、自らの前途を求める場面を物語っています。神々の国なので、フレイヤは強風の中でもしっかりと崖に立つことができ、ジークフリートは延々と燃える炎の中でも角笛を鳴らしています。このような場面を見た子どもたちは想像力を働かせて、2人の今後の様々な道のりを思い浮かべるでしょう。

 

『神々の黄昏』の中の挿絵(ラッカム作)(パブリックドメイン)

 

人物だけでなく、ラッカムが描いた大自然も生き生きしています。例えば、真冬に、ある女の子が大きな菊の花の横を通った途端、菊が動き出しました。女の子は動いた菊に怯えていますが、読者が若者なら、この場面を見て、菊が何を言っているのかに興味がわくでしょう。

 

『ケンジントン公園のピーター パン』の挿絵(ラッカム作)。女の子の声を聞いた菊が大きな声を上げた、「まあ!これは何?」(パブリックドメイン)

(つづく)

(翻訳編集・天野秀)

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