「頑張って」と励ますのは単なるプレッシャー?

恋人が辛い思いをしていて、めったに連絡をくれないので、あなたはどうすることもできず、無力感を感じています。一日に何度も「元気を出して」と声をかけたくなりますが、かえって相手にプレッシャーを与えてしまう気がします…。

相手は仕事や人間関係がうまくいかず、さらに父親が椎間板ヘルニアと診断されたことも知りました。2カ月の間に次々と起こったこれらのことは、彼を苦しめ、毎日疲れ切った顔をしていました。

私たちが普段、うっかりやってしまう間違いは、落ち込んでいる人に「頑張れ!」と声をかけてしまうことです。

これは当然、友人をポジティブな気持ちで鼓舞するためのものですが、実際には相手に何の力ももたらしません。

「目の下にひどいクマが出来て、かなり疲れた顔をしている」、そんな言葉も慰めにはなりません。若い人の言葉を借りると「真実の暴力」というか、再度痛いところを踏みつけられたみたいで、いっそう耳障りです。

むしろ、「顔色はそれほど悪くないから、もうちょっと頑張れば良くなるはずだよ」と言った方がいいでしょう。この方が気持ちがよく、慰めにもなります。

慰めの言葉が相手の心に届かないのは、あなたのせいではありません。イライラや不安を抱えているときは、誰でも過度に「自己陶酔」(self-absorption)し、目の前の状況に合理的な説明を求めて、過去を振り返ることを繰り返してしまうものなのです。しかしその過程で、自分の取るに足らない失敗を大きな失敗に感じてしまうだけでなく、自分を卑下するネガティブな感情に陥ってしまうこともあります。

目の前の問題に悩み、プランA、プランB、プランCなどと頭を悩ませていると、周囲の環境や人々の正常なエネルギーに関心が向かず、どんな慰めの言葉にも耳を貸さなくなってしまうのは当然のことでしょう。

この自己陶酔は、自分の殻に閉じこもるようなもの、あるいは突然自己防御のスイッチを入れるようなものです。実はこれは、悩みに思考や感情が支配され、他の人に目を向けるエネルギーが残っていないということです。そのため、デートをキャンセルし、その理由を恋人に伝える気力さえもないのです。

では、恋人のために何ができるのでしょうか?慌てて慰めようとせず、同じ気持ちであることを伝えてください。まず相手の話を聞くというのは、簡単なようでいて、そうではありません。

人は誰でも自分を中心に考えるところがあり、デートを勝手にキャンセルしてよそよそしくしている恋人に憤りを感じたり、怒りながら説明を待ったりしてしまいがちですが、そうすると相手は余計に心を閉ざしてしまいます。こういう時こそ落ち着いて、相手の立場を思いやりながら、相手の話に耳を傾けてください。

私達は普段、相手の言葉を自分の価値観で解釈することに慣れているので、自己陶酔は恋人に対してだけでなく、他人との会話においても障害となるのです。

会話の中で無意識に自分の考えを発動させ、その考えが何かを判断することが多いのですが、その判断はネガティブなものであることが多く、ネガティブな感情につながることがあります。

恋人が「仕事に疲れた」と愚痴をこぼした時、「最近は就職難だから我慢して」と答えるのは、自分の価値観にそぐわない他人の考えや行動を「間違い」だと決めつける「道徳的判断」になります。

すると相手は防衛的になって全く反応しないか、自分の立場を主張して抵抗し始め、その結果、この「道徳的判断」が相手の自尊心を傷つけてしまいます。

私たちは皆、その人が人生において何を一番大切にしているのかを考えながら接する練習をする必要があります。

じっくりと相手の話を聞いたら、次は自分の言葉で誠意を伝え、相手にも確認してもらいます。このとき初めて、その人が本当に認められたことになるのです。

例えば、「最近疲れ気味なんです」という人に「そうなんですか」と言っても、相手を認めることにはなりません。心から「そうですか、今のところはまだなんとか大丈夫という感じですか?顔色があまり良くないですね」と声をかけるべきです。

相手の考えや気持ちを理解し、できればその後の相手の気持ちも考慮した上で、賛成を表明するようにしましょう。話す内容だけでなく、表情やボディーランゲージの意味も観察してください。

この段階を経て、究極の承認となるのは、相手の隠れた感情や欲求を察することです。

「決断の仕方は分かっているのに、お母さんにそう言われたら辛いですよね。お母さんに信頼されていないような気がして、傷つくのはわかります」

「大臣の承認が欲しいのに、承認してくれないから不満なのでしょう」

この究極の承認は、その人が自己陶酔を捨て、あなたと一緒に苦難に立ち向かい、自分をオープンにし、あなたに心の支えを求める勇気を持つことを助けます。

アメリカを代表する心理学者であるカール・ロジャーズは、「承認は、他人が困難な状況に陥ったときに与えることのできる最高の贈り物である」と述べています。

(翻訳・金水静)

曾臻