神韻のプリンシパル・ダンサー 内面からの美

呉凱迪(カイディ・ウー)さんの声は春風のように優しく、ゆったりとしている。品位ある静かな振る舞いは、心の内から生まれてくるようだ。

呉さんが神韻芸術団の舞台を目にしたのは、中国からカナダのトロントに移住してからのことだという。感動に包まれる観客のひとりだった彼女は、「ああ、この人たちのようになりたい!」と願った。

今はその夢の最中にいる。神韻芸術団のプリンシパル・ダンサーとなり、初めて神韻を見たときに魅了された「美」を舞台から送り届けるアーティストになった。

神韻ダンサーの内なる美

新唐人テレビ(NTDTV)主催の中国古典舞踊国際コンクール(2012年)に、呉さんは出場した。黄色と青を基調とした、ゆったりとした白いドレスに身を包んだ。桃色の絹布をなびかせ、まるで雲に運ばれているかように舞台を横切る。瞳は輝き、口元にはほほえみ。彼女が自ら振り付けた作品に浸っていると、観客はターコイズブルーの湖の波紋が見え、爽やかな朝の風が感じられ、人里離れた谷でツバメがさえずりが聞こえてくるようだ。

このような美しさを、ダンサーはどう表現するのだろうか。

「美しさは、自分の内面が自然と映し出されることによって表現されるべきです」と呉さんは言う。外見的な美しさではないと言うのだ。だからこそ中国古典舞踊は、優しく、高潔な人格の形成と切り離すことができない。

2019年9月の中国古典舞踊国際コンクールでは、王宝川という役を選んだ。王宝川は貴族の家柄で、平民の雪蓮貴と恋に落ちる。彼は優しくて優れた人格者だったが、結婚後に唐の将軍に出世し、長い間戦場に赴いて家を離れた。粗末な洞窟住居に一人で住んでいた王宝川は、様々な苦難を乗り越えなければならなかった。しかし恐れることなく、ただひたすら待ち続けたのだと言う。そして18年後、戦場から凱旋した最愛の夫との再会を果たす。王宝川には、忠誠心や忍耐力、無私の精神が宿っていると呉さんは讃える。

神韻芸術団の一員として、呉さんは中国の伝統舞踊を復活させるだけでなく、古人の価値観も伝えている。当時の中国女性の典型は、洗練された優雅さと美徳であったが、それは現代の潮流に押し流されてしまった。

静かな想い 

呉さんが中国古典舞踊を学ぶ上で最も苦労したのは、肉体的なことではなく、精神的な面だったと言う。あるとき先生から、「あなたはダンサーとして安定感がない。まるで表面的に息を止めているかのようだ」と指摘された。風に吹かれて漂う葉のようだと。「すぐに緊張してしまっていたのです」と言う。

やがて、呉さんにも問題の原因がわかってきた。「他人からどう見られるかが気になったのです。自分のことを考えたら、もっと緊張してしまうんです」。彼女は心を落ち着かせ、気を散らす不安を払拭する術を身につける必要があった。

例えば呉さんにとって、ハンカチーフダンスはいつも難しいものだった。最大の見せ場は、ダンサーがハンカチーフを空中で回転させて前方に投げ、それが地に落ちる前にキャッチすることだ。うまくキャッチできなかったらどうしよう…。「演技のとき、自分のことを考えるべきではありません。ただひたすら自分のやるべきことを考えるのです」

呉さんは、2012年から神韻の世界ツアーで主役のダンスを任されるようになった。責任が重くなり、安定した心構えがより重要になった。「自分だけが目立ってはいけないんです」と言う。それよりも、大きな全体に同化して、全体としてのパフォーマンスを完成させようと努力するのだ。

「みんなで、同じことに取り組んでいるのです。集団の力はひとりの力を超えます」。やがて呉さんは自分より周りを優先し、周りに合わせることを学んだ。そうして初めて、観客を感動させる演舞を披露することができる。

神韻のパフォーマンスが自分の目的に

呉さんは仙女や宮廷の乙女のような優美さだけでなく、現代の英雄のような威厳も感じさせるダンサーだ。神韻の2017年世界ツアーでは、「ある子供の選択」と題された作品で、孤児となった少女を演じた。その少女は、やがて両親の死の真相を知る。中国の伝統的な精神修煉法である法輪大法を実践する両親は、残酷にもその信念を理由に、中国共産党政権に殺害されたのだ。

この作品は、中国で実際に起きた事件を題材としている。法輪大法は、かつて中国で推定1億人の実践者がいたとされる。しかし1999年、中国共産党は全国的に迫害を命じ、20年以上に及ぶ残忍で非人道的な行為が始まった。その迫害は今もなお、続いている。

呉さんが演じた少女は、迫害の圧力に屈することなく、両親の遺志を継ぎ、正しいことのために立ち上がる。作品の最後では、法輪大法の中心的な原則である「真」「善」「忍」の文字が書かれた旗を掲げている。彼女の決意と恐れに屈しない姿勢は、観客を感動させた。

呉さん自身も、法輪大法の実践者の家庭に育った。中国共産党による迫害は、身をもって体験している。両親がカナダに移住した後、彼女は祖父母と一緒に中国に住んでいた。

当時、両親が法輪大法を実践していたため、警察が家に踏み込んできた。小学校で差別を受け、1年留年させられ、同級生から水筒で殴られるなどのいじめを受けたこともあった。しかし幼い彼女は、ただただ戸惑っていた。それが中国を離れる間際になって、彼女は自分が信仰を理由に不当な扱いを受けていたことに気づいたのだった。

呉さんは、そうした過去を軽やかに語り、当時の自分がいかに無知であったかを思い起こしながら笑う。自分の苦しみは比較的軽かったが、迫害によって自由やキャリア、そして命までも奪われた中国の法輪大法実践者を想っている。だからこそ、舞台でこうした話を伝える機会を大切にしている。

「多くの人が、中国でこんなことが起こっているなんて信じられないと言います。また、感動して泣いたという人も多いですね」と呉さんは言う。そんな時、彼女は心の中で思う。「私たちのしていることは無駄ではない。大切なことなのだ」

インタビューが終わると、近くの公園で写真撮影に。湖畔の砂浜で、ダンスのポーズや跳躍を披露してもらうことになった。近くにあった木の棒に寄りかかり、2、3回押してその強度を確かめながらストレッチ。次の瞬間、足を苦もなく頭の後ろに上げ、天を指すように一直線に。

スニーカーを脱ぐと、つま先とかかとにプロのダンサーとしての傷跡が残っていた。しかし、呉さんはその傷に気づいていないかのようだ。飾り気のない黒いシャツに身を包んだ彼女は、鮮やかな夕焼けをバックに空中に飛び出した。まるで時間が停止したかのようだった。

そのシルエットは、長年ステージに立ち続けた華やかな10年間を刻み込んでいる。彼女は暖かな笑みを浮かべ、穏やかで誠実な表情をしていた。

IRENE LUO