2017年4月21日撮影されたスプラトリー諸島のサンゴ礁(TED ALJIBE/AFP/Getty Images)

中国軍医療船、南シナ海で数千人の軍人にサービス提供 継戦能力を誇示か

中国共産党は近隣諸国と領有権を争う南シナ海の島や岩礁に多数の兵員を駐留させている。中国国営放送はこのほど、軍の医療船がパラセル・スプラトリー諸島を訪問し、「駐留する兵士・将校延べ5千人以上に医療サービスを提供した」と報じた。

駐留軍に関する詳細データを公表するのは稀であり、戦争を継続するだけの後方支援能力があることを誇示する狙いがあるとみられる。

中国中央テレビ(CCTV)は10日付で、中国軍の医療船「友好」が広東省の南部戦区海軍第1病院から医療従事者40人を乗せ、南シナ海のパラセル・スプラトリー諸島の13の島と岩礁に駐在する軍人に医療サービスを提供したと報じた。「延べ5000人以上に医療サービスを提供し、任務中に60件以上の手術を実施した」という。

衛星写真がとらえた建造物

米国防総省が2016年に発表した報告によると、中国は南シナ海で13平方キロ以上の土地を埋め立てた。最近も埋め立て工事が続いているため、現在の人工島の面積ははるかに大きいとみられる。

米インド太平洋軍司令官によると、南シナ海南部のスプラトリー諸島にあるミスチーフ礁、スービ礁、ファイアリークロス礁には港湾、滑走路、レーダー、格納庫などが確認でき「軍事化されている」という。

2013年、フィリピンはハーグの常設仲裁裁判所に対して国際法に基づく主権権限の明確化を求める訴訟を提起。2016年、南シナ海のほぼ全域に対する中国の領有権主張に根拠がないとの判決を下した。しかし中国はその結果を認めることを拒否し続け、島や岩礁の拡張工事を続けている。

中国は2012年に南シナ海の西沙・南沙諸島およびその海域を海南省三沙市が管轄すると発表。 2020年には新たな行政区として西沙区・南沙区を設置した。

人工島は「張子の虎」

中国共産党が南シナ海で人工島を軍事拠点化しているが、実際の戦略的な利点は限定的との見方もある。

米ケンタッキー大学のロバート・ファーレイ上級講師は米紙ナショナル・インタラストの寄稿文で、第二次世界大戦中、太平洋の島々の管理を試みた日本軍が食糧や燃料、装備補給に苦戦して、のちに戦略的には負担となっていった例をあげた。中国は人工島に地対空ミサイルなどを配備しているが、戦争中の機能維持には本土からの弾薬補給に依存し、空輸・海運に莫大なコストがかかるという。

このほか、狭い島ではミサイルシステムを隠す山林や丘もないため、中国軍の人工島を使った防御作戦(接近阻止・領域拒否「A2/AD」など)の効果は、戦争初期に限定されると指摘した。

米海軍戦争学校の中国海事研究所は8月、中国軍には輸送と戦争物資の備蓄には深刻な欠陥があるとする報告書をまとめた。

前出の報告書はまた、中国が台湾を侵攻すれば、米国や日本の介入によって戦争が長期化・広範囲化するいっぽう、海上封鎖や国際制裁を受けることで石油などの戦略物資が不足に陥ると記している。

中国軍の後方支援能力はいかほどか

中国共産党の台湾侵攻のスケジュールが早まるなか、米国の海軍大学校は7月に発表された報告書のなかで、中国軍には長期戦に対応しうる後方支援能力を獲得していないと記した。

報告書は中国軍が必要とする後方支援について、物資の輸送、燃料の供給、医療・捜索救援、戦争物資の修理保管などを掲げた。そして中国軍には水陸両用舟艇や輸送機、戦争への備蓄が足りておらず、能力を完備するためには10年ほど必要だと指摘した。

中国軍の元海軍中佐である姚誠氏は米VOAの取材に対し「中国軍は戦争物資を備蓄しているが、それらを戦場まで送り届ける能力に重大な欠陥がある」と述べた。

台湾の中華戦略学会の研究員張競氏は、中国軍は長年に渡って実戦経験を積んでいないと述べた。平時に行われる小規模な軍事演習での救護活動と実際の戦場には大きく異なるものがあり、有事の際に平時と同様に活動することはできないと指摘した。

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