チンギス・カンーー勇士を引き付ける魅力(上)【千古英雄伝】

遊牧民は皆、温厚で忠実ですが、同時に広い心を持っています。人材なら、たとえその人が敵側の人間でも高く評価します。

ウイグル人のタタ・トゥンガは元々ナイマン部のタヤン・カンに仕え、ナイマン部の金印・金銭を管理していました。ナイマン部がチンギス・カンに滅ぼされた後、タタ・トゥンガは金印をもって逃げたものの、結局はモンゴル軍に捕まえられました。チンギス・カンはタタ・トゥンガに、「なぜ金印を抱えて逃げたのか」と聞くと、タタ・トゥンガは、「金印を主君の手に返すことが私の職務である。他人の手に渡ってはならない」と答えました。

これを聞いたチンギス・カンは「真に忠義のある人だ!」と評価し、そして、タタ・トゥンガから、金印は金銭の出納、人材の委任など、証として押された命令書は信頼できるものとなることを知り、印章を作らせ、その管理をタタ・トゥンガに任せたのです。

また、タタ・トゥンガはウイグル文字にも精通していたため、王族に教え、帝国で広めることを任せました。

2度の裏切りを許す

即位する前、まだモンゴル草原を統一する戦いを繰り広げていた頃、テムジンとジャムカはダラン・バルジュドの地にて激戦(十三翼の戦い)を交わしました。兵力が及ばなかったため、テムジンの勢力はたちまち敗れていきます。テムジンの声望に嫉妬していたジャムカは、テムジン側の捕虜70人を釜茹での刑に処したのです。この残酷な場面に怯え、ジャムカに失望した同盟氏族の首長たちは、部下たちを率いて続々とテムジンの陣営に投じました。

この中には、かつてテムジンを裏切った者もいます。モンリク・エチゲはかつてテムジンの父・イェスゲイに仕え、イェスゲイが死ぬ間際に遺族の面倒を見ると約束し、最後まで看取りました。しかし、氏族内の事情により、モンリクは他の家老とともに幼いテムジンとその一家を裏切り、見捨てました。テムジンの軍隊が拡大していくにつれ、モンリクは再びテムジンの所に戻ってきましたが、間もなくして、テムジンのもとを離れ、ジャムカに投じました。

かつて父に仕えていた事もあり、テムジンはモンリクのころころと変わる態度を許しました。そして、今回の十三翼の戦いを機に再度戻ってきたモンリクを寛大に受け入れ、金銀財宝まで授けました。

(つづく) 

(翻訳編集 天野秀)