欧州全域で年末から年始にかけて記録的な暖かさが続いている。環境活動家らは気候変動対策をいっそう急ぐべきだと声を上げ、天然ガス価格の高騰に苦しむ各国政府にとってはひとまず胸をなで下ろす状況になった。写真は4日、サラエボにあるスキー施設で撮影(2023年 ロイター/Kirsten Donovan)

アングル:欧州暖冬「まるで夏」、エネルギー危機には救い

[ロンドン/ブリュッセル 4日 ロイター] – 欧州全域で年末から年始にかけて記録的な暖かさが続いている。環境活動家らは気候変動対策をいっそう急ぐべきだと声を上げ、天然ガス価格の高騰に苦しむ各国政府にとってはひとまず胸をなで下ろす状況になった。

スイスからポーランド、ハンガリーまで過去数日の気温は過去最高に達し、ハンガリーの首都ブダペストの元日の最高気温は摂氏18.9度に上昇。フランスでも昨年12月30─31日の気温が統計開始以来の最高となり、南西部は元日に25度近くまで気温が上がった。この地域は普段スキーリゾートとしてにぎわうが、雪不足のため閑古鳥が鳴いている。

最高気温が20度を超えたドイツの気象当局は、これほど温暖な年末年始は記録を取り始めた1881年以降一度もなかったと述べた。

チェコのテレビ局は、民家の庭で一部の木で早くも花が咲き始めていると報道。スイスの気象当局は、ハシバミ(ヘーゼルナッツ)の花が開花したことを受けてアレルギーのある人向けに花粉警報を発令した。

スペイン・バスク州のビルバオ空港の気温は25.1度。近くの美術館周辺では日光浴をしたり、ネルビオン川沿いを散歩したりする人々の姿が見られた。

ビルバオで暮らすエウセビオ・フォルゲイラさん(81)は「ここはいつもたくさんの雨が降りとても寒い。それが1月だ。(しかし今は)まるで夏のように感じる」と驚く。

フランス人旅行者のジョアナ・オストさんは「自転車を走らせるには絶好の天気だが、私たちはこの地球が焼けるような状態にあるのも承知している。だから今を楽しんでいるのと同時に恐ろしくも思っている」と話した。

科学者らは気候変動が最近の暖冬に具体的にどのように影響を及ぼしているのかの分析作業をまだ終えていない。ただ1月がこれだけ暖かいという事実は、人類の活動に起因する気候変動がもたらす長期的な温暖化の流れにぴたりと符号する。

欧州連合(EU)の気象情報機関、コペルニクス気候変動サービス(C3S)の気候科学者フレジャ・バンボルグ氏は「欧州の冬は、地球全体の気温上昇の結果として年々暖かくなっている」と指摘した。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの気候科学者フリーデリケ・オット博士も「新年にかけての欧州全域の記録的な高温は人類の活動に起因する気候変動によって起きた公算がより大きくなった」と述べた。

フランスのピエール・シモン・ラプラス研究所のロベール・ボタール所長は、気温上昇は12月30日から1月2日がピークだったが、温暖な気候自体は2週間続いており、しかもまだ終わっていないと説明。これは比較的長く持続する気象現象だとの見方を示した。

<人影消えたスキー場>

フランスの気象当局は、この異例の高温について、亜熱帯地域から欧州に大量の暖気が流れ込んだためだと判断している。

直接的な被害を受けているのが各地のスキー場で、予約のキャンセルによって客がほとんどいなくなってしまった。スペイン北部のアステュリアス、レオン、カンタブリアといったスキーリゾートは雪が降らないのでクリスマスの休暇シーズンからずっと閉鎖されたままだ。

1984年冬季五輪の会場になったボスニアの首都サラエボ近郊のジャホリナ山地も、本来ならばスキー客で最もにぎわう時期のはずなのに、地面に雪はなくリフトには誰も乗っていない状態。あるゲストハウスのレストランではたった一組のカップルだけが夕食を摂っていた。

ポーランド南部ザコパネで1月7─8日に予定されていたスキージャンプの大会は中止となった。

環境団体グリーンピース・ドイツの気候専門家カルステン・スミッド氏は「現在起きている事態はまさに気候科学者が10年前、20年前に警告していた。そしてもはや防ぐことができない」と語り、これ以上の劇的な温暖化を食い止めるための早急な行動が必要だと訴えた。

<ガス価格は下落>

一方、ロシアがエネルギー供給を減らした後、代わりの調達先確保やエネルギー価格の抑制に悪戦苦闘してきた欧州各国から見ると、この異例の暖冬は当面の危機を乗り切る「救いの神」の役目を果たしている。

欧州各国はエネルギー危機によって化石燃料からクリーンエネルギーへの移行を加速させるべきだと声をそろえているものの、短期的な問題としてロシアから供給落ち込みの穴を埋める分だけの天然ガスを見つけるという課題がなお解決していない。

しかし足元では気温上昇のおかげで多くの国で暖房用ガスの需要が減少したため、天然ガスの価格下落につながっている。天然ガス取引指標のオランダTTF期近物は4日午前の価格が1メガワット時(MWh)当たり70.25ユーロと、昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻直前以来の低水準となった。

イタリアのエネルギー当局責任者は、暖冬がガス価格を押し下げ続けるなら、今月のエネルギー規制料金は下がるだろうとの見通しを示した。

(Matthias Williams記者、Kate Abnett記者)

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