ウクライナ当局者はロシア連邦が解体する可能性があると主張している。写真はロシア軍陣地を砲撃するウクライナ軍戦車(Photo by ANATOLII STEPANOV/AFP via Getty Images)

「ワグネル」が奏でるロシア連邦崩壊の序曲

すでに1年以上続くウクライナ戦争では、10万を数えるロシアの若者が犠牲となった。いっぽう、プーチン大統領は数万人規模の花火大会でナショナリズムを煽り、人類を滅ぼしかねない核の脅威を鼓吹することで、侵略戦争を正当化しようとしている。戦争の残酷さは、ロシアの熱狂的なナショナリズムに覆い隠され、埋もれている。

2022年2月24日の夜明け前、戦争は突如として起こった。キーウ側は当初、防戦に徹していたが、勝利への道筋はすでに見えていた。ウクライナ軍情報部のヴァディム・スキビツキー副部長はメディアの取材に対し、侵攻開始当初からウクライナは自国を防衛する手筈を整え、自信を持って敵軍を迎撃することができたと語った。対照的に、大きな過ちを犯したのはロシア連邦軍であり、ウクライナ軍の戦力を過小評価していたとスキビツキー氏は指摘した。

ロシア軍がウクライナ領に侵攻した当日、ロシアの寡占資本家(オリガルヒ)たちはクレムリンに集められた。プーチン氏は彼らに対し、ウクライナ侵攻を支持する以外に選択肢はないと告げた。いっぽう、西側諸国による前例のない制裁は彼らの富を破壊し、ロシア経済も多大な損失を被った。軍需産業や金融企業など、100以上の事業体や個人が制裁対象となった。一方、ウクライナはロシア以上の犠牲を払っていた。8,000人以上の民間人が殺害されたばかりか、国中のインフラが破壊され、都市は荒廃した。

しかし、最終的により大きな代償を支払うのはロシアだろう。ウクライナの国家安全保障・国防会議長官オレクセイ・ダニロフ(Oleksiy Danilov)氏は、ロシア連邦の解体はすでに進行しており、いかなる交渉でもその流れを止めることはできないと語った。大地震を止めることができないのと同じ理屈で、ロシアの「地震」を止めるのは不可能だという。

ロシア内部の混乱はすでに戦闘部隊で表面化し始めた。民間軍事会社ワグネルの創設者エフゲニー・プリゴジン氏は2月22日、弾薬不足が原因で戦死したとされる戦闘員の遺体の画像を公開し、ロシア軍への批判を強めた。ショイグ国防相とゲラシモフ参謀総長が弾薬や物資の補給を差し止めたと非難した。

ワグネル社とロシア軍上層部の緊迫した関係はさまざまな憶測を呼んでいる。ロシア軍がワグネル社の影響力を抑えるべく、国営メディアに関連報道を行わないよう要請しているという。

さらに、ワグネル社が刑務所から囚人兵を募集することが禁止され、戦闘で消耗した人員の補充が困難となっている。このまま消耗が続けば、犯罪を働いた囚人による傭兵部隊は地上から消滅するかもしれない。戦争犯罪の責任をワグネルに押し付けることこそ、プーチン氏をはじめとするロシア指導部の思惑なのだろうか。

内外から圧力を受けるプリゴジン氏に同情する者がいるとすれば、それはチェチェン共和国の指導者カディロフ氏だろう。同氏はワグネル社を高く評価し、自身の私兵を養成することを考えている。

プリゴジン氏とカディロフ氏は、いずれもプーチン氏の個人的な盟友だが、公の場ではロシア軍指導部を非難してきた。両氏は、ロシア連邦への忠誠心はほとんどなく、歴史的な理由や個人的な恨みから深い敵意さえ持っている。戦争がどのような形で終結しようとも、両氏はロシア連邦にとって潜在的な脅威となるだろう。

ロシア連邦は89(国際的には83)の連邦構成主体からなり、そのおよそ4分の1は非スラブ系住民が多数派だ。国民に占める非スラブ系のタタール人やバシキール人、チュヴァシ人、チェチェン人などの割合は年々増加している。これらの民族の忠誠心は政権から得られる福祉の厚さと比例しているため、彼らの子息が徴兵され戦死までする状況では、プーチン政権への忠誠心を期待することは容易ではない。

ウクライナの政府関係者は戦争の勝利を堅く信じており、ロシア連邦が崩壊するという彼らの「予言」も実現する可能性がある。しかし、ロシアでは、少なくとも表面的にはプーチン氏と戦争への支持が根強いようだ。それを裏付けるかのように、モスクワで開催されたのは犠牲者を悼む祈祷集会ではなく、勝ち目のない戦争をもてはやす花火の祭典だった。

(翻訳に際し原文を一部編集しました)

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