———アメリカ有名レディースファッションブランド「ペル」の副社長、ゾウ・リーさんのインタビューより

華麗なるCEOの私生活(第3章)

(前章に続く)

苦労して手にいれた家庭

ゾウ・リーさんは家庭観念が非常に強い人でした。それは誰にも構ってもらえない、という自身の経験に関係しています。文革当初、彼女の両親は捕えられ、彼女の家は赤衛隊(上海労働者保守派連合組織)の指揮部となりました。まだ10歳にもなっていないゾウ・リーさんは、近所の人々に助けてもらいながらも、次にいつ食べ物が手に入るのか分からないため、腐ったものを洗って食べる日々を送りました。

学校に行くと、毎日のようにいじめられました。誰もが、彼女の両親が牛棚(文革期に批判対象を軟禁した小屋)に閉じ込められていることを知っており、彼女を守ってくれる人はいませんでした。彼女に対して、殴ったり蹴ったりと暴行を加えました。当時のゾウ・リーさんは、自分に唾を吐いたり、自分の髪を掴んだりしないようにただ願うだけでした。文革時の恐ろしい日々を思い出すたびに、彼女は寒気や恐怖を感じます。

米国に来てからは、どんなに仕事が忙しくても、週末には夫や子供たちのためにおいしい食事を作りました。朝早く起き、彼らが一番好きなチーズをサンドしたパンケーキを焼きます。時には、フレンチトーストにイタリアンソーセージを添えたものも作ります。そして、呼び鈴を鳴らすと、夫と子供たちはパジャマのまま急いで下の階に降りてきて、朝食を取ります。

ここに来るまでの過程は容易ではありませんでした。1980年代のはじめ米国に来た当初、彼女たちにはお金がありませんでした。そのため、いつも手元のわずかなお金を眺めては、「電車に乗る」か「夕飯を食べる」かの選択を迫られていました。ある時には、学費が足りないために、彼女は学校に通うのを諦めた事さえあります。

子供ができると、彼女は子供たちを連れて出かけました。飛行機に乗るお金がなかったため、車で米国各地を旅しました。また子供たちの芸術修養に役立つよう、幼い頃からブロードウェイによく行きました。しかし、家族全員のチケットを一度に購入するわけにはいかないので、今回は母親、次回は父親というようにどちらかが連れて行きました。

現在、夫婦はビジネスで成功を収めたので、お金のことで悩む必要はなくなりましたが、別の理由で別れることになってしまいました。

夫の心変わり、連絡が途絶える

ある日、彼女は結婚生活を守るために、今の会社での有利な仕事を放棄して、夫のもとに戻ることを決意しました。そのために、彼女は上海の西側にある唯一のアメリカンスクールを見つけ、下の娘をそこに通わせたいと思いました。

彼女の上海に戻りたいという考えに、夫のトニーは反対し、こう答えました。「上海の学校は米国の一流の学校に及ばない。しかも、君が上海に戻ってきたとしても、僕は工場にいるのだから一緒にはいられない」。

さらに上の娘も反対しました。「ママとパパが向こうで暮らすのは良いけど、妹には米国に残ってほしい」。また彼女は何でもお見通しかのようにゾウ・リーさんを見つめ、「パパと妹のどちらかを選んで」と言いました。

ゾウ・リーさんは娘を選び、上海に戻ることはありませんでした。しかしある日、トニーとある女性の不倫を知ることになります。彼女は衝撃を受けましたが、すぐに冷静になり決断します。まだ幼い下の娘のために、何も知らないふりをすることを。

あるとき、家族でディズニーランドに行くことになりました。ホテルにつくと、トニーは下の娘と同室を希望しました。なんだか嫌な予感がしたゾウ・リーさんは、夫がどんどん遠くに飛んでいく凧のように感じました。 気まずい旅の後、トニーは上海に戻りました。

恐怖と絶望の日々

ある夜、彼女が目を覚ますと、幼い娘が一人でベッドに座り、体を揺すりながら「どうしてパパは帰ってこないの」とつぶやいていました。家政婦が幼い娘のベッドカバーの下に書かれた文字を発見し、そこには「パパ、私と家族を置いていかないで!」とありました。それを見たゾウ・リーさんの目には涙が溢れ、トニーへの恨みが胸いっぱいにこみ上げてきました。

しかし、彼女がトニーに第三者がいるのか尋ねると、毎回のように、トニーは常に口ごもって否定します。「いや、いないよ!僕はそんな人じゃないでしょ?」と。しかし、彼女はもう以前のように彼を信じることができませんでした。

ゾウ・リーさんは、男性がいない大きな家にいるととても恐怖を感じました。ある深夜に、家の警報器が理由もなく鳴り出したため、子供たちが翌日学校に行くのに影響を与えることを恐れ、あわてて大きなシャベルを探して警報器を壁から切り落としました。その後、彼女はトニーに電話して泣きつきましたが、話をしている最中に彼は電話を切ってしまいました。

ある日、彼女は2階の大きな窓辺で外を眺めながらぼんやりしていました。すると、プールの上空に白い霧が立ち込めているのが見えました。彼女は何が起きているのかわからず、下に降りて確認してみると、プール全体が蛇行するかのように沸騰しているのがわかりました。彼女はヒーターの故障だと思いましたが、どうやってヒーターを止めればいいのか分かりませんでした。そこで、電源を探し回り、最終的には主電源を切ることで問題を解決しました。

ゾウ・リーさんは広々とした窓の前に戻り、床の上に丸くなって泣きました。彼女は優秀で競争心が強く、人の前ではビジネス界の女性リーダーのように振舞っていました。しかし、実際の彼女は甘えたがりのお嬢様であり、夫に依存する妻だということに、今回初めて気づいたのでした。

絶望と恐怖に包まれたある日、ゾウ・リーさんは、窓辺に立ち、目の前のガラスを無意識になでながら、プールの水を見つめていました。彼女はその水に入って、苦しみから解放されたいと思いました。かつては夫トニーがビールを飲みながら、彼女と子供たちがプールで遊ぶ様子を見て写真を撮っていました。もしプールの中に浮かんでいる自分を見たら、彼はどんな表情をするだろうか?そんなことを考えると、ゾウ・リーさんは突然快感を感じました。

すると、物音がしました。娘が起きたのでしょうか?次の瞬間、彼女はまるで自分が娘になったかのように、娘の寝室の窓辺に立って、窓からプールの中の自分を見ました。「ああ、ダメ!私の子供!私の娘!」ゾウ・リーさんは突然目が覚めました。「娘はもう父親を失ってしまった。母親までも失わせるわけにはいかない!」彼女は窓から離れて、後ろに一歩退き、ふらつきながら自分の部屋に戻りました。

(つづく)

注:この物語中の人物名や会社名は実在のものではありません。

呂琴兒