この「銭湯」ということば、中国の人が見たらきっと、スープ屋さんと勘違いすることでしょう。(プラナ / PIXTA)

湯【ことばの豆知識】

学生街には必ず一つはあった「銭」。浴室付きのワンルームマンションが当たり前になった昨今、すっかり姿を消してしまいました。「♪二人で行った横丁の風呂屋」と歌う『神田川』の世界は、今の学生さんにはピンと来ないかもしれませんね。

ところで、この「銭湯」ということば、中国の人が見たらきっと、スープ屋さんと勘違いすることでしょう。暖簾に「亀の湯」なんて書いてあったら、なおさらです。だって、中国語で『湯』は「スープ」のことなんですから。

「見善如不及、見不善如探湯」(『論語』、善いことだと思えばすぐに行い、善くないことだと思えば、熱湯に手を入れたときのようにすぐさま遠ざかる)という表現にも見られるように、『湯』は中国語でも古くには「お湯」を指しましたが、それがいつの間にか「スープ」を意味するようになりました。

中国には古くから煎じ薬や薬膳スープを飲む習慣があり、「お湯」でぐつぐつ煮込むからでしょう、『葛根湯』とか『人参湯』のように『~湯』と呼ばれました。それが現代では幅広くスープを指すようになったと考えられます。

一方日本語の「湯」は、「お湯」のほか、「湯を使う」「湯の宿」のように、しばしば「風呂」や「温泉」の意味でも用いられますが、「スープ」の意味はありません。古くには「湯」だけで「薬湯(やくとう)」を表したようですが、今では「葛湯(くずゆ)」とか「飴湯(あめゆ)」といったことばの中に、わずかにその名残りを留めているだけです。

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