中国人民銀行(中央銀行)はデフレ阻止に力を入れているが、貸し出しがインフラや製造業部門に流れ、肝心の消費に向かわないため政策効果が十分に発揮できていない。中国経済が抱える構造的欠陥が露わになった格好だ。写真は、北京にある飲食店街の提灯の下を歩く女性。2015年9月撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

焦点:中国の政策ジレンマ、金融緩和がデフレに拍車も

[北京 10日 ロイター] – 中国人民銀行(中央銀行)はデフレ阻止に力を入れているが、貸し出しがインフラや製造業部門に流れ、肝心の消費に向かわないため政策効果が十分に発揮できていない。中国経済が抱える構造的欠陥が露わになった格好だ。

中国では物価下落により民間企業と家計の実質利回りが上昇し、投資や雇用、個人消費を圧迫。こうした中、人民銀行に利下げを求める声が強まっている。

不動産危機と地方政府の債務問題によって資産の質が悪化していることから、人民銀行は信用収縮を防ぐために預金準備率を引き下げて銀行システムへの流動性供給を増やすことも求められている。

しかしいずれの措置にも共通の問題がある。中国の与信需要は製造、インフラセクターに偏っており、両セクターの過剰生産能力が経済のデフレ圧力に拍車をかけているのだ。

中国政府は、不振にあえぐ不動産セクターから製造業へと資金の流れをシフトさせてきた。インフラ支出は数十年にわたって投資比率を高止まりさせる原因となり、経済的資源を家計から奪っている。

グロー・インベストメント・グループの首席エコノミスト、ホン・ハオ氏は「与信の大半がインフラセクターに向かい、一部は過剰な生産能力にも流れている」とし、「さらなるデフレ圧力を生んでいるのが実態であり、問題だ」と語った。

人民銀行は「今後も緩和を続けるだろうが、現状では金融政策が本来の効果を発揮できないと私は思う」という。

こうした人民銀行の苦境を踏まえ、アナリストは政府が消費拡大に向けた構造改革を加速すべきだと指摘する。

昨年11月の消費者物価指数は前年同月比0.5%低下し、低下スピードは過去3年で最も大きかった。卸売物価指数に至っては同3.0%も下落。生産能力と比較した内外需要の弱さが鮮明になった。

12月の物価統計は12日に発表される。人民銀行は22日に次の政策決定を行う可能性がある。

<資金の流れに懸念>

中国のマネーサプライ統計には、民間セクターの与信需要の弱さが表れている。

流通する現金と企業の要求払い預金で構成されるマネーサプライM1と、M1に企業、家計の定期性預金などを加えたM2の比率(M1・M2レシオ)は、11月に過去最低水準に低下した。

シティのアナリストらは「M1の低さは民間企業の信頼感の弱さを示しているか、不動産不況の副産物か、その両方かもしれない。つまり政策が十分に波及していない可能性があり、非常に懸念される」と記している。

昨年1―11月の新規融資21兆5800億元(3兆0100億ドル)のうち、家計向けは約20%にとどまり、残りは企業向けだった。

アナリストによると、企業向け融資の大半は国有企業に向かったとみられる。民間企業、とりわけ政策的に優先されると見なされていないセクターは、国有企業に比べて厳しい状況だ。

ここ数年の利下げを受け、人民銀行の1年物最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)は現在3.45%と、2019年8月以来の低水準となっている。しかし卸売物価の上昇率で調整した実質金利は上昇し、11月時点では6.45%だ。数年ぶりの高水準となった6月の8.95%からは低下したものの、昨年の国内総生産(GDP)成長率の実績見込み、約5%を依然として上回っている。

<構造的不均衡> 

構造的な不均衡が存在するため、人民銀行はこれまで通り一歩ずつ金融緩和を進めるしかないとアナリストは指摘するが、実質金利の上昇を踏まえれば追加緩和が無意味とは言い切れない。

中国5大銀行は12月22日に一部の預金金利を引き下げた。これにより、人民銀行が今月にも政策金利を引き下げる道が開けたかもしれない。

シティは、人民銀行が今年、政策金利を合計20ベーシスポイント(bp)、預金準備率(RRR)を合計50bp、それぞれ引き下げると予想。ゴールドマンは25bpのRRR引き下げが3回、10bpの利下げが1回行われるとみている。

しかしOCBC銀行のグレーターチャイナ調査責任者、トミー・シエ氏は、現在の金融・財政、その他の政策ミックス下では、流動性供給の拡大がデフレ圧力を増す結果になりかねないと指摘。「刺激策の焦点がもっぱら供給サイドに集中しているようだ」と言う。

同氏は「これらの政策は生産を押し上げることにより、雇用安定を維持する重要な役割を果たしてきた。しかし需要が弱い環境下で生産を拡大することで、デフレのリスクを高めている」と語った。

HSBCの首席アジアエコノミスト、フレデリック・ニューマン氏は「ディスインフレのリスク拡大を食い止めるには、需要を強めて経済を成長させる必要がある」と言う。「それを達成するには、金融緩和を活用するだけでなく、支えとなる財政政策と構造改革を実行するのがベストだ」と同氏は続けた。

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