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漢字の神秘(7):一

何万字と言われる中国語の漢字の中でも、最もシンプルなのが「」。日本語と同じく、「ひとつ」の意味で、最初に子供が習う漢字です。しかし、この漢字に含まれる意味は、単なる「いち」だけでなく、更に奥深いものを含んでいるのです。

「一」は、中国哲学が認識する「宇宙の始まり」を表しています。神話によれば、宇宙が創造される前、説明のつかないような、無定形のかたまりが存在し、そのかたまりが爆発して数々の物質を形成したと伝えられています。

教の創世説も、似たような認識をもっています。宇宙の始めの状態は、ひとつの虚無の境界で、そこから全ての世界、次元、生命が派生していったと考えられているのです。女性(陰)や男性(陽)が生まれる前は、完全なる「いち」であり、それはあまねく存在する「力」で、永遠です。それをすなわち「道」と呼びました。

老子の教えによれば、人間はこの生命の源である「道」から離れることができないといいます。そして、「道」の性質に従って生きなければ、いずれその存在は破滅することになります。「道」の本質は、真(まこと)、柔和、無為、調和、無私、素朴、謙虚であり、この性質と合致すれば、すなわちその生命は永遠となり、「道」から全てが与えられるのです。

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中国で生まれた漢字には、時に宗教的な意味合いを含む場合があります。 漢字が形成された時代に生きた人々は、神など人間には見えない生命を心から信じていたことが、漢字から窺われます。
これは、乳がんで乳房が大きく腫れたにもかかわらず隠していた於勝を、青洲が診察しようとする場面で、「観念した」とは、隠し続けるのを「あきらめた」ということです。
中国語の醫(yī)は、日本語の「医」にあたり、治療、医薬などの意味を含みます。紀元前2000年ごろに書かれた甲骨文字の「医」は、現在よりシンプルであり、矢尻と鉤(かぎ)状の道具の形で表しました。
家という意味を表す「宀」と、豚を表す「豕」で、古代中国における「家」を容易に想像できるでしょう。