デンマークの研究者たちは、広く使用されている糖尿病治療薬「オゼンピック」に対して懸念を示しています。彼らの研究によると、この薬は、医師が「視神経の脳卒中」と呼ぶ状態を発症するリスクを著しく高める可能性があることが分かりました。
「オゼンピック」リスクが2倍に高まることが判明
医学誌『International Journal of Retina and Vitreous』に掲載されたある研究によると、糖尿病治療薬「オゼンピック」を使用すると、NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)の発症リスクが2倍に高まることが分かりました。NAIONは重篤な目の疾患で、片方の眼の視神経への血流が不足することで、突然視力が低下するのが特徴です。NAIONは、50歳以上の人々にとって突発的な視力低下の一般的な原因とされています。
「この病気は、視神経の『脳卒中』と考えても差し支えありません」と、ハーバード大学医学部に所属するマサチューセッツ眼耳病院の神経眼科部長であり、眼科学教授でもあるジョセフ・リゾ3世(Joseph Rizzo III)医師は、エポックタイムズの取材で語っています。「脳卒中のように、視覚機能を失う結果になります」
NAIONの典型的な症状には以下のようなものがあります:
- 突発的な視力喪失:朝起きたときや短時間の昼寝後に突然起こることが多い
- 無痛性の視力低下:他の目の病気とは異なり、痛みを伴わないことが多い
- 片目に発症:通常は片方の眼だけに現れるが、稀に両眼に及ぶこともある
- 視力のぼやけや変形:特に視野の下部にかけて、視界が歪んだり不鮮明になる
- 色の感覚の低下:色が薄く見えたり、色調がおかしく感じられることがある
- 視野に影ができる:視界の一部に暗い影や盲点が生じることもある
研究チームは、デンマークの2型糖尿病患者424,152人のデータを分析し、オゼンピックの使用とNAIONのリスク増加の関連性を調査しました。その結果、この視力に深刻な障害をもたらす疾患にかかるリスクが、オゼンピック使用によって明らかに高まることが分かりました。
「私たちは、オゼンピックがNAIONの発症リスクが2倍以上に高まることを発見しました」と、南デンマーク大学臨床研究部の眼科学教授ヤコブ・グラウスルンド(Jakob Grauslund)氏は声明の中で述べています。「この病気は、重度かつ永続的な視力障害につながる可能性があります」。
「オゼンピック」発売以降、NAIONの症例が顕著に増加
グラウスルンド教授によると、2018年に「オゼンピック」がデンマークで販売開始されて以来、NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)の症例が顕著に増加しているといいます。
「以前は、毎年およそ60〜70件ほどのNAION症例しか見られませんでしたが、今ではその数が約150件にまで増えています」と彼は述べました。また、現在NAIONで入院する患者の大多数が2型糖尿病患者であることも指摘しています。
同様に、まだ査読を経ていないプレプリント(事前公開)論文において、南デンマーク大学の公衆衛生学部で薬理学を専門とするアントン・ポッテゴード(Anton Pottegard)教授とその研究チームは、デンマークとノルウェーにおける2型糖尿病患者で、「オゼンピック」を初めて使用した人々の症例を分析しました。その結果はグラウスルンド教授の発見と一致しており、「オゼンピック」の使用がNAIONの発症リスクを2倍に高まることを示しています。
なお、過去にアメリカで行われた別の研究でも、NAIONの発症リスクは2倍を超えると報告されており、今回の研究の数値はそれよりは低いものの、両者ともに「オゼンピック」の使用が糖尿病患者において同様のリスクをもたらす可能性を裏付けています。
ポッテゴード教授は、「今回の研究結果は一連の新たな規制措置や研究の方向性を引き起こす可能性が高い」とエポックタイムズに述べています。
「現在、規制当局は『オゼンピック』の副作用としてNAIONを正式に認定すべきかどうかを判断するための評価プロセスを開始しています」と彼は述べ、「現時点では、これが薬剤全体に共通する作用(クラス効果)なのか、それとも『セマグルチド』という成分、特有のものなのかはまだ分かっていません。つまり、イーライリリー社が開発した2型糖尿病および肥満治療薬『チルゼパチド』や、他の新しい治療薬にも影響が及ぶのかどうかも不明なのです」。
彼はさらに、今回の新たな研究結果が「今後の研究の重要な焦点になるのは間違いありません」と強調し、仮に規制当局がリスクを認めた場合には、同じ薬効群に属する他の薬に対しても専用のモニタリング体制が設けられる可能性があると述べました。
「それに加え、なぜこうした事例が起きるのか、現在のところ発症メカニズムは分かっていません。どのような患者が高リスクなのかを明らかにするためにも、さらなる研究が必要です」と彼は付け加えました。
研究結果は「オゼンピック」の使用中止を意味するものではない
こうした発見がある一方で、デンマークの研究者たちは「オゼンピック」の治療を突然中止すべきではないと慎重に呼びかけています。
ポッテゴード教授は声明の中で次のように説明しています。「これは深刻ではありますが、極めて稀な副作用です。こうした問題は、新薬が市場に出てから数年経って初めて明らかになることがよくあります。強調すべきなのは、この副作用が他の多くの薬に見られる稀な副作用より深刻というわけではなく、また発生頻度が高いわけでもないということです。そして、そういった薬は現在も使用されています」
また、南デンマーク大学オーデンセ校にあるステノ糖尿病センターの糖尿病学教授クルト・ホイルンド(Kurt Hojlund)氏も、声明の中で次のように述べています。
「2型糖尿病を治療することは非常に重要です。しかし同時に、オゼンピックの使用により視力に深刻な損傷が生じる可能性がわずかに高まるというリスクを考慮し、それが腎臓や心血管に有効な他の新薬に切り替えるべき理由になるのかどうかを検討する必要もあります」
ノボノルディスク社の対応声明
エポックタイムズに送られた電子メールの中で、デンマークに本社を置き「オゼンピック」を製造・販売する製薬会社ノボノルディスク社は、NAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)について「非常に稀な眼科疾患である」とした上で、現在販売されているセマグルチド製剤(商品名:オゼンピック、ライベルサス、ウィーゴビー)の添付文書には、NAIONは副作用として記載されていないと説明しました。
「南デンマーク大学の研究および社内の安全性評価を総合的に検討した結果、ノボノルディスクとしては、セマグルチドのリスクと利益のバランス(ベネフィット・リスク比)に変更はないと考えています」と、同社の広報担当者は述べています。
また発表によると、2つの研究でいずれもNAIONの「相対リスク」が約2倍になると示されたものの、「絶対リスク」や影響を受ける患者の実数は依然として非常に少ないとしています。
「今回の審査結果は、NAIONという疾患の年間発症率が極めて低いことと一致しています。研究の1つでは、セマグルチドを服用した1万人あたり年間で約2人がNAIONを発症しており、対照群では約1人という結果でした。つまり、絶対的なリスクは極めて低いのです」と説明し、これらの研究はセマグルチドとNAIONの間に因果関係があると証明したものではないことも強調しました。
さらにノボノルディスクは、「GLP-1受容体作動薬」に関する無作為化臨床試験も分析したと述べました。この試験には眼科専門医による盲検診断が含まれており、NAION患者の正確な診断が行われています。その結果、眼科医によって正式に診断されたNAIONの症例はごくわずかであり、ノボノルディスクが開発したGLP-1受容体作動薬に深刻な副作用は認められなかったと報告しています。
補足:糖尿病治療薬「オゼンピック」は、GLP-1受容体作動薬に分類される薬剤で、血糖値のコントロールを助けるほか、消化を遅らせて空腹感を抑えることで、食事量の減少にも寄与します。
(翻訳編集 華山律)
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