3歳のがん患者の血球が、化学療法後に80歳相当の遺伝的な摩耗を示し、命を救う薬が健康な細胞に長期的な損傷を残すという新たな証拠が明らかになりました。この変化は、生涯にわたり続く可能性があります。
最新の研究では、化学療法が健康な血球のDNAに永久的な損傷を与え、細胞を早期に老化させることで、数十年後に二次がんを発症するリスクを高める可能性があるとされています。
「DNAへのダメージは一生続きます」と、研究に関与していない腫瘍学者・血液学者で、アスベスト.comのメゾテリオーマセンターに所属するダニエル・ランダウ(Daniel Landau)博士は語りました。「おそらく最大の懸念は、過去の化学療法の影響によって、新たながんが発症するリスクが高まることです」
数か月で数十年分老化した子どもの血球
『Nature Genetics』に最近掲載された研究では、化学療法が遺伝子レベルで健康な血球にどのような影響を与えるかが調査されました。
研究チームは、3歳から80歳までの化学療法を受けた23人の血液サンプルと、がんの診断を受けたことがない9人のサンプルを比較しました。化学療法グループは、プラチナ製剤やアルキル化剤など、がん細胞のDNAを損傷することで効果を発揮する薬剤を含む、平均21種類の治療を受けていました。
その中の一例では、化学療法を受けた3歳の男児の血球が、同年齢の健康な子どもと比べて10倍の突然変異を示し、さらに化学療法を受けたことのない80歳の血球よりも、遺伝的にはるかに老化していたことがわかりました。
「従来の化学療法は、腫瘍の縮小に効果的である一方で、健康な組織に深刻な副次的損傷を与えるリスクや、がん細胞の突然変異・耐性獲得のリスクも伴います」と、この研究に関与していないエンビタ医療センターの主任医官ジョン・オートル(John Oertle)氏は述べています。
治療の遺伝的痕跡
この研究では、がん治療薬が治療終了後も長期間にわたって正常な血球に明確な遺伝的痕跡を残し、これらの細胞の機能や老化プロセスに根本的な変化をもたらすことが明らかになりました。
研究者たちは、先進的なDNAシーケンシング技術と数学的モデリングを用いて、血球幹細胞と成熟した血球を分離し、それらの全ゲノムを解析しました。その結果、細胞損傷の原因を示す遺伝的マーカーである「突然変異シグネチャー」と呼ばれる4つの特定のDNA損傷パターンを特定しました。
化学療法を受けた人の血液でのみ確認された11種類のシグネチャーのうち、4つはこれまでに報告されていない新しいものでした。これらのシグネチャーは、がん治療によって体内に残された永続的な遺伝的「瘢痕」と表現することができます。
この発見は、がんサバイバーが後年に心臓病、糖尿病、脳卒中、認知症などのリスクが高まる理由を説明する手がかりになる可能性があります。「損傷を受けた幹細胞は完全に回復することがなく、将来的に他の健康問題へとつながるおそれがあります」とランダウ氏は述べています。
化学療法薬の効果は異なる
すべての化学療法薬が同じ程度のDNA損傷を引き起こすわけではありません。たとえば、多発性骨髄腫や乳がんの治療に用いられるシクロホスファミドは、同じカテゴリーの他の薬剤と比較して、少ない突然変異を引き起こす傾向がありました。
一方で、研究の中で最も強い変異原性を示した薬剤は、「明確に測定可能な」ほどの長期的な治療毒性を伴うことがわかりました。メルファランやクロラムブシルといった二官能性アルキル化剤—2つの反応性基を持ち、がん細胞のDNAを損傷して破壊する薬剤—は、主に骨髄がんの治療に使われますが、シクロホスファミドよりも二次がんのリスクが高いとされています。
特に二次がんや不妊のリスクが高いとされるプロカルバジンは、このような理由から、現在では小児ホジキンリンパ腫の治療に使用されていないと研究者は記しています。また、こうした薬剤ごとの違いは、化学療法薬がDNAに与える損傷の仕方や、それに対する細胞の修復能力に関する「微妙な違い」を反映している可能性があるとも付け加えられています。
より標的を絞った療法を開発するための警鐘
今回の発見は、より標的を絞ったがん治療の開発がすでに進行中であることを強調するものです。
「現時点で私たちにできる最善の方法は、化学療法を適切に投与し、可能であれば代替手段を活用することです」とランダウ氏は述べています。「私たちはしばしば、化学療法の代わりに免疫療法や分子標的療法といった他の治療薬を使用しています」
オートル氏は今回の研究を、従来の化学療法が命を救ってきた一方で、長期的な副作用を抑え、全体的な健康を維持するためには、体の自然な防御機能をサポートする、より安全で標的を絞った療法への進化が必要だとし、「新たな警鐘」と位置付けています。
しかし、現在のところ、化学療法による遺伝的影響から血球を確実に保護する方法は確認されていないとランダウ氏は述べています。
「化学療法薬にさらされる特定の細胞を守るメカニズムが存在するかどうかは、今後の研究が求められる分野です」と、研究には関与していないシティ・オブ・ホープ・オレンジ郡の医療腫瘍学者、クルシャンギ・パテル(Krushangi Patel)博士は語っています。
すべてのがん患者にDNAの変化が見られたわけではなく、治療期間や使用された薬の種類、治療からの経過時間などが、結果に影響を与えている可能性があるとされています。
「これらの化学療法による影響が、長期的な治療や複数の治療薬の使用によって引き起こされるのか、それとも治療後数十年かけて自然に生じるのかは、さらに調査が必要です」と研究者は述べています。
また、研究チームは、参加者数が少ないことや、体外で血液を検査した点などが結果に影響を与えた可能性があるとして、研究の限界についても認めています。
この比較的小規模なサンプルサイズに関して、オートル氏は「さらなる研究は常に歓迎されますが、今回の研究が示すメカニズム的な洞察と、これまでの発見との整合性により、本研究は信頼性が高く、非常に重要なものといえるでしょう」と述べています。
(翻訳編集 日比野真吾)
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