サブリナ・クエバス(Sabrina Cuevas)さんは最初、自分の新しい習慣をあまり気にしていませんでした。ガソリンスタンドでカップに氷を詰めては一日中噛み続け、それが1日4〜5カップにまで増え、人々からは「氷の女」と呼ばれるようになりました。
しかしその渇望には理由がありました。氷を噛む行為、いわゆる「パゴファジア(pagophagia)」は、鉄欠乏症の見落とされやすいサインの一つなのです。
彼女には圧倒的な疲労感、体重増加、消えない頭のもやといった症状も現れていました。「何もかもが面倒だった」と彼女は語ります。しかし、医師に診てもらっても検査結果は「完璧」でした。鉄分も正常値、甲状腺にも問題は見られませんでした。
答えが見つかったのは、婦人科医が一般にはあまり知られていない検査を指示した後のことでした。フェリチン検査の結果は4ng/ml(ナノグラム/ミリリットル)。多くの専門家が「危険なほど低い」と判断するレベルでした。
フェリチンは、体内で鉄を貯蔵する役割を持つタンパク質で、鉄分が不足すると最初に減少します。しかし、日常の血液検査には通常含まれておらず、そのため原因が判明するまでに数か月、場合によっては数年かかることもあります。
検査よりも先に症状が出ることも
多くの人にとって、何か異常を感じる最初のサインは、血液検査ではなく「体の感覚」です。サブリナさんは疲労感と頭のもやを感じていました。他の人では、シャワーの排水口に髪の毛が増える、階段で息切れする、運動を最後までこなせないなどの症状が現れることもあります。
標準的な血液検査は、血液中に「循環している」成分しか測定せず、「貯蔵されている」鉄分は測定されないため、症状が始まっていても見逃されがちです。鉄欠乏症は通常、まず体内の鉄の貯蔵が減ることで始まります。
鉄欠乏症と貧血は混同されがちですが、同じではありません。鉄欠乏症は貯蔵の段階から始まり、その後、鉄分が足りなくなることで健全な赤血球が作れなくなり、貧血が発症します。この時間差が、多くの人が「正常」とされる検査結果にもかかわらず、症状に苦しみ続ける理由です。
2024年に発表されたJAMA Network Openの研究では、アメリカの成人の約30%が、貧血や他の重大な健康問題がなくても鉄欠乏の兆候を示していることが明らかになりました。その一部は鉄の貯蔵量が低く、また一部は鉄の数値自体は正常でも、炎症により適切に利用できないケースでした。研究者たちはこれを「一般的な公衆衛生の問題」と呼び、より適切なスクリーニング体制の必要性を訴えました。
「貧血になる前に症状が出ることはよくあります」と、イェール大学医学部の血液学者ジョージ・ゴシュア博士(Dr. George Goshua)はエポックタイムズへのメールで述べています。
症状の現れ方には個人差があります。フェリチン値が中程度に低下しただけで疲れを感じる人もいれば、極端に低い状態でも長期間持ちこたえる人もいます。定期的なスクリーニングがなければ、こうした初期の警告サインを見逃してしまうのです。
あなたの鉄の貯蓄口座
フェリチンは、体が鉄を貯蔵する方法——肝臓、脾臓、骨髄などの組織に隠された“貯蓄口座”のような存在です。血液は酸素の運搬やエネルギー産生など、日々の活動に鉄を使用しますが、フェリチンは月経、病気、成長期などで鉄の需要が高まる際に備え、バックアップの役割を果たします。
「フェリチンは体に鉄を貯蔵する“貯水池”を提供します」と、生化学者で分子生物学者のダグ・コリガン(Doug Corrigan)氏はエポックタイムズへの寄稿で述べました。「鉄が必要なとき、フェリチンはそれを放出します。鉄のレベルが高すぎると、フェリチンがそれを隔離して保持します」
血清鉄が“当座預金口座”だとすれば、フェリチンは“貯蓄口座”です。貯蓄が減ると、当座預金がまだ使えそうに見えても、体は引き出す鉄を失ってしまうのです。
フェリチンは安全装置としても機能します。自由に存在する鉄は毒性を持ち、組織に損傷を与える酸化ストレスを引き起こす可能性があります。コリガン氏によれば、1つのフェリチン複合体は最大4,500個の鉄イオンを貯蔵できるため、“生物学的金庫”として機能し、必要になるまで鉄を閉じ込めておくことで、細胞の損傷を防ぎます。
「正常」が必ずしも健康とは限らない
フェリチンが検査されても、その結果は誤解を招くことがあります。多くの検査機関では、正常値の下限を15〜20ng/mlと設定していますが、これは最適な健康状態ではなく、あくまで人口平均に基づいた範囲です。その平均には、すでに鉄欠乏の状態にある人も多く含まれています。
「正常な血清フェリチン値に男女で生理学的な差がある理由はありません」と、血液学者のカイリー・マーテンス(Kylee Martens)氏とトーマス・デラフリー(Thomas DeLoughery)氏は、『Hematology』に掲載された記事で述べています。「むしろ、この違いは多くの女性が鉄の貯蔵をほとんど、あるいは全く持っていないことを反映しています」
大規模な研究では、カットオフ値を50ng/mlに設定した場合、50歳未満の女性のほぼ半数が鉄欠乏と判定され、これは男性の3倍以上の割合となりました。このギャップは、女性における「正常な」フェリチン値が、実際には慢性的で見逃されがちな鉄欠乏を示している可能性を示唆しています。
つまり、本来女性の体が「空っぽ」であるはずはないのに、そう見なされてきたのです。
新しい研究では、フェリチンの基準値をより高く設定する必要性が指摘されています。研究によると、疲労などの症状はフェリチン値が50に達すると改善し始め、鉄の吸収もその水準に回復するまで十分に機能しないことが分かっています。
24,000人以上の健康な成人を対象とした最近の分析では、フェリチン値が100未満になると赤血球の健康に早期の変化が現れ、特に50〜65ng/mlで顕著でした。これらの結果は、すでに多くの臨床医が実際に確認していることを裏付けています——すなわち、フェリチン値が50に近づくと人はしばしば体調が良くなるということです。
その50ng/mlという数値は、単なる目安ではありません。最近、国際的な医療専門家のパネルは、この値を鉄欠乏症を特定する「合理的な出発点」として推奨しました。彼らは、フェリチン値が50を下回ると、赤血球のサイズや酸素運搬能力の低下など、微細な欠乏の兆候が現れると述べています。
それにもかかわらず、明らかな症状を持つ患者でも、フェリチン値18が「正常」と表示されることは一般的です。
「普遍的に受け入れられている“正常値”の基準は存在しません」と、ゴシュア博士は述べました。この曖昧さこそが、多くの鉄欠乏症が見逃されている原因なのです。
フェリチン値は逆方向にも誤解を生みやすい存在です。低いフェリチン値は鉄欠乏症の強力な指標ですが、正常または高めの数値が必ずしも鉄欠乏を否定するわけではありません。炎症、感染症、肝疾患、特定の癌などがフェリチン値を上昇させ、実際の欠乏状態を覆い隠すことがあるからです。
「フェリチン値が正常であっても、鉄欠乏症を完全に否定することはできません」と、コリガン氏は述べました。「フェリチンは炎症など他の要因で上昇する可能性があるからです」
鉄欠乏症がしばしば見逃される理由
鉄欠乏症は、特に女性において最も一般的でありながら診断されにくい健康問題の一つです。しかし、米国では、生殖年齢の女性に対して定期的なフェリチン検査を推奨する公式なガイドラインが未だ存在しておらず、このギャップが多くの症状を説明できず、治療されないまま放置される要因となっています。
鉄の需要が高まる妊娠中でさえ、フェリチンのスクリーニングは標準的には行われていません。2024年、米国予防サービス専門委員会は、「無症状の妊婦における鉄欠乏症のスクリーニングを推奨または反対する十分な証拠がない」と結論づけました。
科学的な根拠に疑問はありません。問題は、それに対応するシステムが追いついていないことです。古い検査基準と一貫性のない症状の認識により、貧血ではない鉄欠乏への対応はしばしば不透明です。
そもそも、検査が行われる前提が整っていないのです。正式なガイドラインがないため、フェリチンは多くの場合、貧血や重度の出血など、明白なケースでしかチェックされません。あいまいで長引く症状を持つ女性は、完全な検査を受ける機会を逃してしまうのです。
「対処すべき課題は山積みです」と、イェール大学の血液学者ジョージ・ゴシュア博士は述べました。その中には、フェリチンの参照範囲を標準化することや、鉄治療に関する根強い誤解を払拭する必要があるとし、「これらの変更は、“コストの問題”にすら触れていない」とも指摘しています。
とはいえ、コストはより良いスクリーニング体制を支持する理由になるかもしれません。『American Journal of Hematology』に最近掲載された研究で、ゴシュア博士と同僚は異なる閾値でのフェリチン検査の影響をモデル化しました。15ng/mlまで低下するのを待つのではなく、25ng/mlでのスクリーニングの方が、より効果的で費用対効果も高く、比較的少ないコストで良好な結果をもたらすとされました。
「言い換えれば」とゴシュア博士は述べました。「私たちの研究は、25mg/ml(マイクログラム/リットル)が診断の基準であるとは言っていません。15と比較して25が費用対効果の高い閾値であると示しているのです」
とはいえ、適切な閾値を特定することは課題の一部にすぎません。フェリチンは鉄欠乏を見つけるための最良の指標の一つですが、完璧ではありません。炎症や他の健康問題がある場合、鉄の貯蔵が低くてもフェリチン値が正常に見えることがあります。さらに、検査結果は検査機関によって異なるため、明確な判断が難しい場合もあります。そのため、医師は数値だけでなく、症状やリスク要因も併せて評価する必要があるとされています。
それでも、多くの臨床医は、「健康でいるための真の閾値」は現在よりも高くあるべきだと信じています。スクリーニングの基準をわずかに変更するだけでも、鉄欠乏症の早期発見につながり、防げるはずの健康問題を未然に防ぐことができます。
こうした背景の中、世界的な取り組みも進んでいます。2024年、米国血液学会は、鉄欠乏症の診断基準を定義する初の国際パネルを招集しました。生殖年齢の女性を含むガイドラインは、2025年後半までに発表が予定されており、鉄の健康に関する評価と管理のあり方に大きな変革をもたらす可能性があります。
とはいえ、どの数値を基準とするかについては、まだ意見が一致していません。一部の専門家は、フェリチンのカットオフ値を高く設定しすぎると、過剰診断のリスクがあり、実際には症状が出ていない、あるいは治療の必要がない人まで対象に含まれてしまうと警告しています。
どう対処すればいいのか?
フェリチンの値が低い場合、鉄を補充することはあくまで対策の一部にすぎません。より重要で緊急の問いは、「そもそも、なぜ鉄の貯蔵が枯渇してしまったのか?」ということです。
多くの女性にとって、その答えは「過多な月経出血」にあります。これは徐々に、しかし慢性的な鉄の損失へとつながります。ほかにも、セリアック病や炎症性腸疾患などにより鉄の吸収がうまくいかないケースもあります。定期的な献血や過度な運動トレーニングも、体が鉄の供給を回復する能力を上回る要因となることがあります。
治療は通常、経口の鉄サプリメントから始まりますが、必ずしも簡単ではありません。鉄の錠剤がうまく吸収されない人もいれば、吐き気や便秘、胃痛といった副作用により服用を中止する人もいます。
錠剤が効果を示さない場合や、フェリチンの値が頑固に低い状態が続く場合は、静脈内鉄の投与が選択肢となることがあります。これは消化器系を迂回し、より迅速に鉄のレベルを回復させる手段ですが、通常はより重度の鉄欠乏症に限定されます。
食事の改善も回復をサポートするのに役立ちます。赤身肉、鶏肉、貝類に含まれる「ヘム鉄」は、ほうれん草やレンズ豆など植物性食品に含まれる「非ヘム鉄」よりも吸収されやすいとされています。鉄分が豊富な食品をビタミンC(柑橘類やピーマンなど)と一緒に摂ると、吸収が促進されます。一方で、コーヒー、紅茶、カルシウムはその吸収を妨げる可能性があります。
鉄の貯蔵を回復するには時間がかかることが多く、数か月、場合によっては数年かかることもあります。また、症状が改善するのは、検査結果よりも遅れることがあります。それでも、多くの人にとって回復による違いは劇的です。
「自分自身に戻った気がする」と、鉄の治療を始めて数週間で疲労感が軽減されたサブリナ・クエバスさんは語ります。「良くなるまで、自分がどれほどひどい状態だったか気づきませんでした」
(翻訳編集 日比野真吾)
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