【紀元曙光】2020年3月17日

とても悲しいことがあったので、せめて小欄に書き残しておきたい。わずか1年6カ月で、食事も与えられずに死んだ男児のことである。
▼君の名前も知らない。顔も見たことはない。しかし日本人の私は今、遠くなってしまった君の魂を呼び戻すつもりで、以下のことを書く。君の悔しい気持ちを慰められるとは思わないが、それでも私に、君の心の声を聞かせてほしい。
▼君の家は、武漢の北西約50キロの湖北省孝感市にあった。孝感、いい地名だね。そのように親孝行したかったけれど、君はまだ小さいから、お母さんのお手伝いはできなかっただろう。でも君は、お母さんが大好きだった。お母さんのことを、誰よりも一番よく分かっていた。
▼お母さんは精神に病をもつ人だったから、周りの人たちは近寄ろうとしなかった。誰も友達になってくれなかった。だけど君は、実はお母さんではなく、ほかの大人たちこそ心が病気であること知っていたんだ。
▼恐ろしい疫病のために、1月24日から、君の住む街全体が封鎖された。街に食べ物がなくなって、みんな困ってしまった。大人たちは、配給された少ない食べ物を自分の家にばかり運んで、君の家には分けてくれなかった。
▼やがて君は、お腹をすかせて、そのまま死んだ。死ぬ前にたくさん泣いたけど、近所の人も、役場の人も、誰も気づいてくれなかった。お母さんだけが君の声を理解して、君に食べさせるため、ほかの人の食べ物を奪おうとした。どろぼうは、いけないよ。でも君は知っていたね。今の中国では、むしろお母さんのほうが正常な人間だということを。