≪医山夜話≫ (6)

前世に結ばれた親子の縁

Kさんには胃の持病があり、治療を受けてからしばらくの間はよかったのですが、最近また再発しました。Kさんの奥さんが、彼の今回の発病について次にように語ってくれました。

 「夫の勤めている会社は中国と取引があります。ある日、彼の中国人の友達が幼い女の子の写真を送ってきて、この子を養子にしないかと尋ねました。その時から、我が家は平穏な生活が破られました。女の子の写真を見た夫は気が狂ったように、涙を流しながら『この子を養子として連れてきてほしい』と私に頼み、それからオモチャ屋に行っては女の子のためのオモチャを山ほど買ってきました。その後、根気よく中国の関連部門と連絡を取り始めました。

 中国側の返事は二転三転でした。最初は、『この子供の行方が分からなくなった』と言われ、その後は『他の人に引き取られた』、また『孤児院に返された』、『病院に送られた』、最後には『この子はすでに死んだ』との連絡が入りました…。

 女の子が死んだと聞いても、夫は決して信じませんでした。彼は気が狂ったように、『それはあり得ない!その子は私の子だ、お願いだから、彼女を見つけてくれ!』と、神に祈るように跪いて、中国にいる担当者に電話で訴えました。しかし、相手は冷ややかに『失礼』と言って、電話を切りました。

 夫は諦めず、国会議員に助けを求めたりもしました。最終的に、夫は子供の写真を持って中国に行きました。夫は中国で無数の困難と苦しみを乗り越え、やっと四川省のある孤児院で胃腸炎にかかって気息奄々となったこの女の子を見つけました。夫はすぐに彼女を米国に連れて帰りました。」

 ある日、Kさんはこの子の胃腸炎を治すために、私の診療所を訪ねました。「この子はどうして両親に捨てられたのですか」と私が尋ねると、Kさんは「この子は母乳を飲まないのです。生まれてから牛乳しか飲まず、ほかのものを口にすると吐き出したり、下痢をしたりしたのです。四川省の農村で農業を営む両親にとって、牛乳はとても高価なので、仕方なく両親は彼女を孤児院に預けました」と答えました。

 それから2年が過ぎたある日、Kさんはもうすっかり喋れるようになった娘を連れて、私の診療所を訪れました。彼女の胃腸炎が再発したからです。Kさんは私に、驚くような話をしてくれました。

 「娘が見つかってから、この子とは一歩も離れたくありません。仕事で出張に出かけるのが嫌で、私は仕事を辞めて毎日娘に付き添っています。ある日、娘を連れて旅行に出かけた時、私ははじめて二人の前世のを知りました。

 電車に乗っている時、娘はアジアを紹介する一冊の旅行雑誌をめくっていました。ベトナムを紹介するページが目に映ると、娘の表情は突然厳しくなって、『お父さんは、ずっと前から私のお父さんでした。私とお母さんとお父さんはここで暮らしていました』と、雑誌の中のかやぶき小屋の写真を指差しながら話したのです。『ある日、お父さんは私を背負って走っていて、お母さんも後について走っていました。お父さんに一発の砲弾が命中し、じっと動かなくなりました。私とお母さんはずっと泣いていました。それから、私はずっとお父さんを探していました…』と言いました」

 ここまで話したKさんは、すでに号泣していました。「私は、同じ悪夢を繰り返し見たことがあります。いつも飛行機、大砲、戦争、爆弾、逃走のシーンです。いつも『お父さん、お父さん』と子供の悲しい叫び声が聞こえていました。いつも、私は自分の泣き声で目が覚めたものです」

 Kさんの話を聞き、この親子が同じ病気にかかる理由が分かりました。私は一本の縄を持ってきて、片端をKさんの腕に縛り、もう片端を娘の腕に締めました。そして、鍼灸のハリをKさんの身体に刺しました。その時、娘は「お父さん、お父さんは死なないよね」とやや緊張した面持ちでした。Kさんは、「大丈夫だ、とても心地いいよ」と微笑み、子供はやっと落ち着いて、大人のようにため息をつきました。私は縄を使って、一人にハリを刺しただけで二人の病気を治しました。

 その縄は、ただ人に見せるために使っただけに過ぎません。実は、他の空間では、この親子の病気の源は同じだからです。